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『真夏の夜の戦』



   ジメジメとした暑さが残る夜、部屋でタバコをふかしていると突然「ブーン」という音が聞こえてきて驚いた。

視線を音の方に向けてみると1匹のカナブンが部屋に侵入していた。照明に何度もぶつかりながら部屋の中をグルグルと旋回している。

   夏になるとコンビニや街灯の照明に集まり何度もぶつかっているカナブンを毎年見かけていたが今年も相変わらずぶつかっている。
学習しないのだろうか、進化しないのだろうか。ぶつかるのを分かっていながらも光に向かっていく本能に抗えないのだろう。悲しい生き物だ。

   そんなことはどーでもいいのだ。問題はこのカナブンをどー処理するか。ひとまずこの飛び回っている状況では手が出せない為、1度床に落とすことにした。机の上にあった以前買ったものの目を通していない雑誌を手に取った。グルグル旋回している為2.3回程空振りしたがなんとか床に落とすことに成功した。

   これでまだ終わりではない。こいつをどうにか外に出さなければならない。網戸を開け無意識にティッシュを2枚取り、床で蠢いているカナブンを掴んで外に放り投げた。試合終了だ。完封勝利と言っても過言ではないほどの圧倒的な力の差を見せつけた。

   ここで1つの疑問が浮かんだ。幼少期の頃はなんの抵抗もなくバッタやセミを素手で掴み取り出来ていたはずだ。もちろんカナブンも例外ではない。しかし今回のカナブンとの試合では無意識にティッシュを取っていた。

   人間というものは幼少期から少年、大人になる過程でいろいろな情報を目にし、耳にし経験を積んで成長していく。慣れていく。克服していく。幼少期は食べれなかったものが大人になったら食べれるようになったなど皆経験あるだろう。味覚の変化という名の進化をしているのだ。

   しかし、幼少期の頃触れていた虫を大人になってなわれなくなる……これは退化なのではなかろうか。老化は別物として、退化することが他にあっただろうか。考えても思いつかなかった。

P.S.…無意識に考えていた事を文字に起こしたが書き終えてみるとかなり長文になっていた。脳の処理能力は凄まじい。

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