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読書【あるニセ占い師の告白】感想

『あるニセ占い師の告白』完読。

アメリカのニセ占い師、ジョン・W・カルヴァーの手記。ジョン自身がどんな経緯で有名占い師になったのか。どうやって巨万の富を築いたのか。ジョン・W・カルヴァー自身が人を騙す禁断のテクニックを大公開。

という内容のフィクションです。

ジョン・W・カルヴァーという架空の人物の物語を使って人を騙すテクニック【コールド・リーディング】の解説をした本。

物語調なのでサクサク読めます。

コールド・リーディングとは「トリックや話術を駆使して相手の現在・過去・未来を占ったように錯覚させる技術」のこと。ちなみに、相手の情報を事前に集めてる事はホット・リーディングという。

「占いにくるカモは人生の言い訳を探している。自分で決断することから逃げ、自己責任を回避しようとする無意識のズルさを兼ね備えている。自分のズルさを正当化する言い訳を求めている。そのズルさを見抜け。そのズルさを肯定しろ。そうすればカモはいくらでも金を出す」

伝説のコーリドリーダー、ジョン・W・カルヴァーはそう言った。俺はその伝説の元でコーリドリーディングを学んだ。ジョン・W・カルヴァーが最後の弟子として詐欺の極意を伝授したのが、この俺だった。

「ちょっと手の平を視てもいいかな?右手を。んー。………気になってる人がいますか?」
「え?」

今日のカモは20代の女性だ。

人間の悩みは四種類しかない。人間関係、金銭問題、健康の不安、そして将来の夢。そのどれか一つのカテゴリーを言い当てればいい。たった4分の1の確率。若い女性の悩みは、ほぼ人間関係か将来の夢。つまり恋愛だ。

気になってる人がいますか?と聞いて若いカモは高い音程で「え?」と言った。

高い音程。それは「え?どうして分かったの?」を意味する。つまり、このカモは誰かに恋をしている。

返答に間があったり低い声で「え?」と返答した場合は的が外れたことを教えてくれる。

そんな時は

「気になってる人、いませんか?何か困ってる人が、あなたの周りにいるはずです。例えばお金に困っていたり、あるいは病気の人が」

と人間関係を金銭問題か健康問題にシフトすればよい。なにも気になってる人が恋愛の対象とは限らない。

「はい、実はプロポーズをされて」
「迷うことはないですよ。受けるべきです」
「そうですか?」

笑顔でカモは答えた。もしこのとき曇った顔で答えたら恋愛に消極的である可能性が高い。

そんな時は

「そうすれば安定した生活が手に入ります。いや、でも守護霊がなぜか反対していますね。あなた他にやりたいことがあるんじゃないですか?」

と方向転換をする。

カモが肯定して欲しければ後押しをし、カモが否定して欲しければ引き止める。どして欲しいのか。カモの欲求をするどく察知する。それが人を騙すコツだ。

カモは笑顔で「そうですか?」と答えた。つまり結婚に前向きということだ。

「それじゃ、より詳しく視たいので紙に名前と生年月日を書いてくれますか?できれば、あなたが持っている紙とペンで」
「あ、はい」

カモは俺の目の前で無防備にバックを開けペンとメモ帳を取り出した。

俺はわざとカモにペンと紙を出させた。その理由はバックの中身を覗き見るため。どんな些細な情報でも集める。集めた情報でカマをかける。それがコールドリーディングのテクニック。

カモは気づいてはいない。バックの中に入っていた高級外車のロゴ入りキーと黒いカードを俺が目ざとく見つけたことを。清楚で大人しい印象のカモが持っている物にしては不自然だ。

なるほど。男だな。

プロポーズをした男が持たせている可能性がある。この結婚、何としても成功させよう。そうすれば、このカモを介してマヌケ男の金が俺に流れ込む。

極上の金ヅルを見つけたぜ。


と自称占い師の孔雀天小角は微笑をこぼした。


占いを終えた賀茂野モカも占いの館を出たとき同じく、うっすらと笑みを浮かべいた。

コールドリーダーほどカモにしやすい人種はいない。と賀茂野モカは思った。

人を騙すことに集中して自分が騙されていることにまったく気づかない。

コールドリーダーは信頼性をアピールするために様々な小道具を使う。あの自称占い師はそんな基本的なことも忘れている。

バックに入っていた高級外車の鍵や黒いキャッシュカードが本物なのか裏を取ることもしない。

あの男は完全に私の術中にはまった。私を金の卵を産む鴨だと思っている。どんなことがあっても私を手放さないだろう。さて、どの手を使って、あのマヌケから金をむしり取ってやろうか。

詐欺狩りのモカ、こと賀茂野モカは小さく舌舐めずりをした。

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