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短編【にっぽんの将来】小説

プレミアムフライデーの今日、俺は社内規定通り十五時に仕事を切り上げて帰宅した。

家に着くと同時に妻が
「サトシのお迎えよろしくー」
と言って仕事に出掛けていった。

妻は飲食店でパートをしている。プレミアムフライデーの今日は十五時退社の会社員たちを獲得するために店を早く開ける。その為に妻はいつもより早く出勤する。

俺は仕事を残したまま早めに帰宅。妻は家事の疲れを残したまま早めの出勤。なんだかなぁ、と思うプレミアムフライデー。

着替えを済ませて息子のサトシを迎えに幼稚園に行った。幼稚園に着くなり
「パパー」
と、愛らしい笑顔のサトシが駆けてくる。

俺は腰を屈め突進してくるサトシを受け止めて抱き上げる。一昨日よりも重くなっている気がする。その重さが少し寂しく思えた。五年前のサトシは愛おしく儚い重さだったのに、今では頼もしく逞しい重さになっている。俺は胸が熱くなって強く抱きしめる。サトシは、痛いよ痛いよと笑いながら身をよじる。息子と一緒に過ごせる時間が増えた。そう思えばプレミアムフライデーも悪くはない。

公園に行きたいとサトシが言うので直帰はしなかった。幼稚園と自宅アパートの中間地点にあるクジラ公園にきた。クジラ公園には公園の名称の由来になっているクジラの模した大きな滑り台がある。そのクジラ型の滑り台の階段には小学五、六年生の男の子と女の子が座っている。その姿は可愛らしいカップルのようにも見える。サトシもいつかは幼くて可愛い恋愛をするのだろうか。
「公園で、何して遊ぶ?」
「おままごと!」

公園につくと、サトシのお友達のミチル君やショウヤ君が砂場で遊んでいた。サトシも急いでその場に加わる。俺は走るサトシを後ろ姿を見ながらベンチに腰掛ける。恋愛なんてのは、まだまだ先の話した。でもいつかは男同士、酒を酌み交わしながら、そんな話をする日も来るだろう。

「遅いよ、サトシくん!」
「ごめんごめん、いま何してた?」
「この前のつづきー。ショウヤくんがボクのカイシャのカンレンコガイシャにM&Aをしかけようとしてたんだよ」
「しかけるって。ボクはユウコウテキなガッペイの話をしていただけだよ」
「サトシくんはどう思う?M&Aについて」
「んー。M&Aはキギョウを買ってバラバラに売りとばす、まるで車ドロボーが車をパーツにブンカイして売りとばすようなものだなー」
「その通りだよサトシくん。ボクもマネーゲームはきらいだ。そんなことをくりかえせば、サンギョウのクウドウカ、ジャクタイカがすすむだけだ」
「そう!まさにM&Aはコクリョクをぬすむこういだよ」
「それじゃ、言わせてもらうけどミチルくん。君のとこのカンレンコガイシャはこれ以上、ギョウセキがアッカしたらきりすてるつもりじゃないのか?じっさい一度、フワタリを出しているじゃないか?なのにキミはキュウサイショチをしていない!だからボクがガッペイをもうしでて助けようとしているのに!」

何なんだ。何なんだこの『おままごと』は。最近の『おままごと』はこんなにレベルが高いのか。息子たちの話は訴訟問題へと発展していた。

日本の経済的将来は意外と安泰かもしれない。


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宇宙の三角形 

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