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読書【完全失踪マニュアル】感想

『完全失踪マニュアル』完読。

【ストレスに対処する最良の方法は『日常性をブレークすること』そして『現状から物理的に離れること』である】

僕も過去に一度プチ失踪をしたことがあるので、その効能はよく分かる。

プチ失踪はストレスの原因がかなり改善される。なによりも「オレはストレスがたまって弾けそうなんだー!」というアピールが強烈にできる。そのかわり周りに迷惑をかけるけど。

その節はご心配をおかけしました。

この本は失踪願望者の手助けをしてくれます。一ヶ月程度の軽い家出から、まったく別人になる方法まで網羅してます。

失踪コンサルタント。それが俺の裏の肩書きだ。
本業は興信所あがりの私立探偵。失踪者を見つけだすプロが失踪の斡旋をしているってわけだ。

ストレスのない世界があるとするならば、それは死後の世界だ。誰かがそう言った。だからと言って人は、そう簡単には死ねない。自殺するのもストレス。

人は日常のストレスが自殺のストレスを超えたときに、やっと死ねる。そのストレスを超えないための最後の手段が完全失踪だ。

自分の本当の過去をすて。
自分の本当の未来をすて。
自分の本当の身分をすて。

偽りの過去を、未来を、身分を手に入れて再出発をする。

「借金で自殺するなんて馬鹿げてますよ。よく思いとどまりましたね。安心して下さい」
「はい…」
「銀行やサラ金からの借金の時効は五年です。五年間、逃げ切れば幾ら借りていてもチャラ。いいですか?山本さん。お金なんてね。借りたもん勝ちなんですよ。借金で困るのは借りた方じゃない。貸した方なんです。貸した人間が困るんです。返して貰わないといけないから必死ですよ、貸した方は。借りた方は逃げりゃいい。気楽なもんです。五年間、逃げ切りましょう」
「五年も。耐えられますかね…」
「大丈夫ですよー、山本さん。隠れんぼしてると思えば。大人の隠れんぼ。やったことありますよね?隠れんぼ」
「ええ、昔、子供のころに」
「楽しかったでしょ?遊び感覚で日々を過ごせばいいんですよ。もちろん我々も絶対に見つからないようにサポートしますから」
「はい…よろしくお願いします」

そう言うと失踪依頼者の山本は力なく笑った。

「それじゃあ、話を進めましょうか。山本さんが五年間、隠れるアパートを用意しました。家賃は月一万です。五年分なので六十万になりますが用意できましたか?」
「は、はい。なんとか」

世の中には借金をしている奴にも金を貸す連中がいる。街金は俺が紹介した。借金はいくら借りても逃げ切ればチャラ。それを知った山本はそこから二百万借りたらしい。人間の欲の深さは底がしれない。

後日、俺は山本を家賃一万円の事故物件に放り込んだ。去年、四十代のニート男が自分の母親を殺した曰く付きの部屋だ。一週間後、山本は闇金の怖いお兄さんに、あっさり見つかって連れ出された。

俺の本業は私立探偵。失踪者を見つけだすプロ。依頼があれば誰でも、どんな事情があろうとも見つけだして報告する。

さて、一部屋60万のボロアパートが空いた。一仕事60万の儲け。片手間にやる副業としては悪くない。

また入居者を探さなくては。でも直ぐに見つかるだろう。

この街はストレスに満ちているのだから。

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