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読書【山田花子 自殺直前日記】感想

『山田花子 自殺直前日記』完読。

山田花子が自殺の直前まで書きためていた日記です。

吉本興業の喜劇女優ではなく漫画家、山田花子の。

統合失調症に苦しみ最後は飛び降り自殺でみずから幕をおろした漫画家。山田花子が死ぬ直前まで書いていた日記。

言葉には霊力がある。悪い言葉には人生に悪影響をあたえる。と本気で信じている言霊信者は読んではいけない本です。世に対する恨み辛み絶望と嘲笑に満ちた本だから。

こんな言葉が書かれてました。

『自分の快楽は他人の不幸』

こんな事も書かれていました。

『希望持つから絶望する。人間は不平等で残酷。世界は嘘つき。「私の人生こんなもん」諦めが肝心』

そして、こんな言葉も。

『人は数々の苦しみ乗り越えて、いつか目的地に辿り着けるという幻想を抱いているが、一つの苦しみが終わったらまた次の苦しみがやってきて、死ぬまで続くだけ』

僕が気にいった言葉は

『優しい人とは無意識に差別できる人』

いいなーこれ。優しい人は差別が上手なんだよなー。差別の達人と言ってもいい。気づかれないように差別できる人。自分が差別していることも気がつかない。それが優しい人。


バイトの篠原が辞めた。

深夜専属に割り当てられたからだ。半分、首斬りにちかい形だった。

ハンバーグレストラン『ビッグトロール』は県境の国道に面して建っている。そのため長距離トラックの休憩地点として利用されている。

深夜の利用客も多い。そのほとんどがトラックの運転手たちだ。深夜といえども昼食時と変わらないくらい、あるいはそれ以上に繁盛している。

深夜の客は気の荒い者も多い。そのため夜勤は正社員が勤めている。バイトが夜勤をすることはまずない。時給で働く者には割に合わない仕事量とストレスだからだ。

バイトが夜勤になるということは、それは会社からの首斬りを意味する。嫌だろ?辛いだろ?だから辞めてくれ。

篠原は深夜へのシフト変更を言い渡されたその日に退職した。正確に言えば有給休暇を消費したあとの退職ではあるが。

退職した篠原は評判の悪い男だった。同僚と金銭問題でいざこざを起こした事もあった。接客態度でのクレームも多かった。とにかく嫌われ者だった。

「篠原ってさ」

深夜の繁忙な時間帯をすぎたころ正社員の杉田は同じく正社員の横山に話しかけた。すると横山は杉田の言葉を断ち切って喋りだした。

「篠原だって、そんな悪いやつじゃないよ。そりゃ言葉遣いは、ぶっきら棒で愛想はわるいよ。だけど、アイツにちゃんと歩み寄らなかった俺らにも非はあるんじゃないかな?たしかにアイツは時間にルーズだし金にもだらしないし。だからと言って、何から何までアイツが悪いと決めつけるのは良くないと俺はもうな。俺は」

横山は人の悪口を言わない男だ。横山は誰にでも気を使う男だ。つまり、優しい男だ。

だけど。

と杉田は思った。

篠原ってさ、ロッカーに置いて行った荷物どうするのかな?辞めて、もうすぐ一週間だぜ?

そう言おうとしただけなのに。何から何までアイツが悪い。なんて思っちゃいないのに。そんな事、言うつもりなんてなかったのに。

横山は自分の正論に酔いながら食器を洗い始めていた。

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