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短編【読まないでね】小説


お母さんに手紙を書くなんて初めての事ですね。本当はメールを送ろうかと思ったんだけど、何だかメールよりも手紙に書きたい気持ちだったので、手紙にしました。お母さんが、直腸癌にならなければ、手紙を書く気には成らなかったと思います。なかなか綺麗に書けなかったので、これで三枚目です。お母さん、今まで本当に有難うございました。お母さんが癌になったことを先生から聞かされた時の事を今でも覚えています。本当にガ~ン!て言う気持ちでした。手術をしても成功率が36パーセントで治る見込みが殆ど無い。手術をするかしないかは、ご家族で決めて下さいと言われた時、途方にくれました。だって、私の家族は私とお母さんしか居ないんだもん。お母さんに相談すると言う事は告知をすると言う事。話す私も辛かったけど聞くお母さんも辛かったよね。二人でトコトン話し合って手術をする事に決めましたね。手術は無事成功して、お母さんは癌に打ち勝ちましたね。退院したら桜を見に行こう、海にも行こうって約束しましたね。あの時は私の人生の中で一番お母さんと向き合っていた気がします。やっぱりお母さんは凄いと思いました。私はダメです。お母さんの様に強くは有りません。私の乳癌の発見が遅れたのは自分に付きっ切りで看病をしたせいだとお母さんは自分を責めたけど、そんな事はありません。むしろお母さんの看病が出来て、お母さんといっぱい話ができて私はとても幸せでした。もう、右手が思うように動かなくて、こんな汚い字になっちゃったけど許してね。4枚目を書く気力がありません。お母さん、本当にいままで、有難う。有難う。有難う。有難う。有難う。有難う。有難うで胸がいっぱいです。この胸の苦しさは、乳癌のせいじゃなく、きっと有難うが沢山つまっているからだと思います。お母さんは治る見込みの殆どない癌から立ち直りました。だから、私も希望は捨てません。この手紙は私にもしもの事が有ったら、お母さんに渡して下さいと、ナースの白石さんにあずけておきます。だから、絶対に読まないでね。だって、直接、お母さんに言いたいんだもん。
お母さん、私を生んでくれて本当にありがとう。

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