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短編【ファッション・モンスター】小説

「ねぇ」
「何?」
「おかしくない?」
「何が?」
「これ!この服装!変じゃない?」
「ぜんぜんおかしくないよ」
「ホントに?」
「うん。かわいいよ」
「ホント?」
「うん。いいと思う」
「どこが?どこがいいと思うの?」
「どこがって…全体的にかわいいよ」
「もう!ふわふわしてる!ユウ君の意見ふわふわしてる!もっと具体的に言ってよ!ここがこうだから良いとか、ダメだとか!っていうかユウ君、私が何を着てもカワイイしか言わないから参考にならないよ!」
「だって、何着ても可愛いんだもん」
「ユウ君は私のことが好きだから可愛く見えるんでしょ?私のことが好きでもなんでもない人から見てどう見えるか、客観的に見てよ!ああ!もう時間がない!じゃ仕事行ってくるね!」

そう言って、彼女は慌しく職場へ向かった。僕が休みので彼女が仕事の日の朝は、毎回こんな感じで彼女を見送る。彼女は僕と違ってとてもオシャレだ。正直、何を着ても本当に可愛く見える。でも、もしかしたら彼女が言うように、僕だけが可愛く見えているのかもしれない。恋は盲目という。『愛』と言う名の美しい光に包まれて、あまりの眩しさに僕は目を瞑っていたのかも知れない。だとしたら大変だ。僕だけが可愛いと思っていても、世間では彼女のファッションは普通だったりしたら。こんなダサい僕と付き合っているせいで、彼女までダサくなってしまっていたら。いつまでも可愛い彼女で居て欲しい。僕が見ても他の誰が見ても。僕は早速ファッションの勉強を始めた。ファッション雑誌を読みまくった。オシャレな彼女に的確な意見を言えるように知識を吸収した。そして三ヶ月後。僕のファッションに対する理論武装は完全に整った。

「ねぇ、この服装、どう思う?」
「うーん。トップに白のポンチョを持ってきて、ボトムは黒のスカートでしょ?うん。いいとは思うよ。ただちょっと学生っぽいかな?あと、トップにボリュームがあるから、スカートは避けた方がいいかも。これじゃボトムにもボリュームが出ちゃうから太って見えるよ。ポンチョを活かすんだったら、スカートを、そうだなぁ。デニムに替えちゃったほうがいいね。それでブーツインしたら完璧。それと、シャツなんだけどぉ。うーん。ちょっとそのポンチョには合わないかなぁ。タートルネックか…、あ!カットソーのほうが落ち着くかも。逆に黒のスカートを活かすんだったらトップは」
「もういい!なによ!私のこと嫌いなの!嫌いになっちゃたの!もう!嫌い!」

と叫んで彼女は部屋を飛び出した。気づかないうちに僕はファッションモンスターに成っていた。

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