そこをぬくといふ事

底を抜くといふは、敵とたゝかふに、其道の利を以て、上は勝と見ゆれ共、心をたえさゞるによって、上にてはまけ、下の心はまけぬ事あり。其義においては、我俄に替りたる心になって、敵の心をたやし、底よりまくる心に敵のなる所、見る事専也。此底をぬく事、太刀にてもぬき、又身にてもぬき、心にてもぬく所有り、一道にはわきまへべからず。底よりくづれたるは、我心残すに及ばず。さなき時は、のこす心なり。残す心あれば、敵くづれがたき事也。大分小分の兵法にしても、底をぬく所、能々鍛錬あるべし。


講談社学術文庫『五輪書』 宮本武蔵 鎌田茂雄 訳注

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