【小説】電話テロ


「くすくすくす、じゃあ明日。遅れないで下さいね」
「分かってるよ」

 おちょくっているかのような友人に、不機嫌な声で答える。
 いや、いるかのような、ではない。確実におちょくっている。

 学生の頃からの友人は、新しいもの好きで、少しでも面白そうだと思ったらすぐに自分でも初めてしまう。社会人になって、自分の自由になるお金が増えてからは、一層だ。

 つい先日も「面白い」「新しい文化だ」と言って機材を買いそろえていた。そしてその勢いでチャンネルも開設。まだ登録人数は少ないが、配信もしているらしい。


 明日は久々に二人で飲みに行くということで、待ち合わせ場所を決めるために連絡を取ってはいたが。メッセージを入れておけばいいものを、わざわざ電話を掛けてきやがった。

「今の電話、誰?」

 妻が聞いてくる。

「浩司だよ。明日、飲みに出るって話してあったよな」

 友人と妻とは何度か顔を合わせているし、その甲斐あって、たまに飲みに出ることも許してもらっている。曰く、お互いに息抜きくらいは必要でしょ、だそうだ。お陰で友人と疎遠にならずに済んでいる。

「嘘。今の女の人の声だったよね? 誰?」

 妻の声が少し固い。
 心の中でそっと溜息。
 そう思うよな。そうだよな。あいつ絶対狙って電話かけて来ただろ。

「浩司で間違いないよ。ほら、着信履歴見てみ?」

 そう言ってスマホを渡す。俺には疚しいことは何もない。だが、明日、友人を殴るくらいは許されてもいいんじゃないだろうか。

「……確かに浩司さんの着信だけど、……浩司さんって妹さんとか居る?」

 妻が言いたいことは分かる。だが、あの電話は本人だ。本当、あいつ殴ってやろうか。

「本人で間違いないよ」

 チャンネルを開設し放送を始めてから、何が面白いのか、友人は放送以外でもその機材を使っていたずらをしてくるようになった。
 あいつは一週間前、バ美肉おじさんとしてデビューした。


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