【小説】ヴァーチャル桃太郎

 昔、昔を模した世界に、貧しいポリゴン数のおじいさんとおばあさんが住んでいました。

 ある日、おじいさんは山へ熊狩りに、おばあさんは川へ鍛錬に出掛けました。

 おばあさんが川で明鏡止水をしていると、どんぶらこ、どんぶらこと、大きな桃が流れてきました。

「キエエエーーーー!」

 気合一閃。おばあさんが手刀を繰り出すと、桃は綺麗に真っ二つ。

「またツマラヌものを切ってしまった」

 おばあさんがそう言って背を向けます。桃は二つに割れたまま、どんぶらこ、どんぶらこと、川を流れていきました。

 桃は川を下り、海に出ます。そして流れ着いたのは一つの島でした。

 鬼ヶ島。そう呼ばれるエリアには、鬼アバターをこよなく愛する人々が暮らしていました。

「おお、大きな桃だ。鬼に作り替えてやろう」

 哀れにも鬼に見つかった桃の命運尽きました。

 鬼の欲望の赴くまま、二つに割れた桃を更に分解、オブジェクトは鬼の姿に再モデリングされてしまいました。

 これぞ現代に錬金術です。全ての物は個となりて新たな鬼が誕生します。

「桃から作ったから、お前は桃太郎だ」

 鬼たちは仲間が増えたことを喜んで酒盛りを始めました。

 めでたし、めでたし。



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