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【小説】ヴァーチャルかさ地蔵

 昔、昔を模した世界に、貧しいポリゴン数のおじいさんとおばあさんが住んでいました。

 年も暮れる大晦日。おじいさんは販売会場で笠のモデルを売りに出掛けましたが、ひとつも売れませんでした。

 おじいさんはただ立っているだけの販売に飽きてきたので、家に帰ることにしました。

 帰り路は「大晦日と言えば雪っしょ」という運営の計らいで吹雪でした。

 そんな吹雪の中で、おじいさんは六体のお地蔵様を見つけました。

 お地蔵様には真っ白な雪が積もって、とても寒そうです。

「これはこれは、お地蔵様にも雪が積もるなんて、なんてしっかりとした雪のオブジェクトだ」

 おじいさんはうれしくなって、売るはずだった笠をお地蔵さんの頭にかけてあげました。

 ところが最後のお地蔵さんの分ひとつだけ、笠が足りません。

 そこでおじいさんは、笠のモデルをデュープして笠を一つ増やしました。

 家に帰り、おじいさんは、おばあさんにこの話をしました。

「おじいさん。良い事をしましたね」

 そう言って、おばあさんは喜びました。

 その晩のこと。

 ズシン、ズシン、という音が遠くから聞こえてきました。

 おじいさんとおばあさんは、そっと外を覗いてみました。

 すると、吹雪の中、大きな荷物を引いて歩く人影が見えます。

 笠を被った人影は、お地蔵さんでした。

「親切なおじいさんの家はどこかいな。親切なおじいさんの家はどこかいな」

 音は段々と大きくなって、おじいさんの家の前までやってきました。

 コン、コン、と扉を叩く音がします。

「運営ですが、先ほどのデュープ行為についてお話を伺えますか」



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