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なぜUnityで映像制作をするのか? ~リアルタイムレンダリングの世界を深く考察してみた~

皆さんが遊んでいるゲームの多くがUnityで開発されていることはご存知かもしれませんが、実は映画やアニメなどの映像作品でもUnityが使われているケースが増えています

「・・・え、なぜUnityで映像制作を?」と思う方もいるでしょう。そこで今回は【Unityとアニメ・映像制作】というテーマで、どうしてUnityで映像制作をするのか?を書きます。

※今回はアニメ・映像業界やゲームエンジンに精通していない方でも読めるよう、簡略した説明になっていることをご了承ください。



映像作品におけるUnity活用事例

Unityで制作された映画・アニメ作品はたくさんあります。今回はその中でも特にアニメ作品を紹介します。


たとえばマーザ・アニメーションプラネットさんでは2016年に『THE GIFT』、2019年には『THE PEAK』という短編作品の制作で全編Unityを使っています。


スタジオコロリドさんの2017年公開の映画『ペンギン・ハイウェイ』ではレイアウト工程においてUnityを活用しています。


クラフター・スタジオさんの2019年に公開された映画『あした世界が終わるとしても』では、群衆シーンなどいくつかの場面で使われています。


グラフィニカさんによる、同じく2019年公開の映画『HELLO WORLD』でも一部シーンで使われたほか、作品上ではプリレンダリングだったシーンをUnity Japanと共同でリアルタイムレンダリングで再現できるかの検証も行いました。


海外の事例で言うと、Disney Television Animationの『Baymax Dreams』などが挙げられます。ちなみに『Baymax Dreams』の制作スタッフはSIGGRAPH Asia 2018で来日してくれて、制作過程について講演してくれました。



「プリレンダリング」と「リアルタイムレンダリング」

では、なぜ様々なアニメ・CGスタジオがUnityで映像制作をするのでしょうか?

Unity Japanの大前が2018年末のパンフレットの中でこんなことを述べています。

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2014年ごろから同時多発的に映像現場の世界でUnityが注目され始めたと言ってもよいかもしれません。その当時から映像業界では4Kや8K対応を求められる未来が予見されており、制作現場は新たな道を模索せざるを得ない状況にありました。
なぜなら、4KであればフルHDの約4倍、8Kに至っては約16倍の映像サイズになり、当然プリレンダリングの処理時間も4倍あるいは16倍になってしまうからです。単純計算でも10分の作業が40分に、1週間の作業が4週間になるわけです。
また、市場も成熟していくにつれてコンテンツ制作にかけられる時間もどんどん短くなっていく傾向にあり、根本的にこのままの制作フローでは破綻することが目に見えていたわけです。



元々CG映像作品は「プリレンダリング」という手法で映像制作をしてきました。今もその手法で作られている作品も多いです。

一方で、プリレンダリングはどうしてもレンダリング処理の時間が掛かり、大規模なプロジェクトなほどレンダリング時間は掛かります。

そんな中で、プレビューボタン一つですぐプレビューが動くUnityのようなゲームエンジンに注目が集まり始めたのです。そしてゲームエンジンで実現しているレンダリング方式は「リアルタイムレンダリング」と呼んだりしています。



このリアルタイムレンダリングは、単に「レンダリング(描画)が速い」というだけの話ではありません。

これについても大前はパンフレットの中で、リアルタイムレンダリングのツールで制作する価値を説明しています。

映像制作ワークフローはどんどん長大化・複雑化・専門化しています。もちろんこれによるメリットもありますが、新たなアイディアを試そうとすると手戻りのコストがすごく高く、結局諦めないといけないケースが多くあると思います。
たとえば、従来はライティングを行うと処理時間がかかるため、プリビズ行程(注:Pre Visualization。完成前のシミュレーション行程)でライティングはしない事のほうが多いです。しかしこれではライトや影のアイディアをディレクターは想像でやるしかありませんでした。
カメラワークの変更やカラーコレクションをした後のショット編集もコストが高い。とにかく何かを進めるためには決める必要があり、決めた後に変更を加えることにはコストの問題が常に発生するわけです。
しかしUnityではそういう心配がかなり減ります。Unityはリアルタイムでレンダリングするので、どのタイミングでもすぐプレビューすることができます。
ライトでもカメラでもカラーコレクションでも、アーティストやディレクターはいくらでも時間の許す限りアイディアを試せるわけです。複数のアイディアをキープしながら制作を進めたり、カメラも複数設定しておいてカメラワークの可能性を残しておくこともできます。Unityは、制作現場から生まれるアイディアを諦めさせない、試すコストを限りなくゼロに近づけた世界にしたいと考えています。



つまり「現場のアイディアを諦めさせないことが、リアルタイムレンダリングの価値である」と述べています。


ゲームエンジンを日頃から触っていると、プレビューボタンですぐ動くことが当たり前のように感じます。また、インタラクティブメディアであるゲームでは非常に高速なレンダリングを常にキープしないといけない宿命にあります。業界的には「フレームレートをキープする」とか言ったりします。

しかし、アニメ・映像業界をはじめ、他業界ではこれが当たり前では無かったりします。プリレンダリングと比べれば、リアルタイムレンダリングでの描画処理時間はほぼゼロのようなものですし、インタラクティブメディアでない映像作品であればフレームレートのキープに苦労する必要もほぼありません。



ここでリアルタイムレンダリングの世界で映像制作をするメリットの考察をもう少し深めていきます。ちなみに考察は当社の小林にも手伝ってもらいました。


後工程で意志決定をすることは、決定を先送りにすることではない

ゲーム、アニメ、実写とジャンルを問わず、全ての映像コンテンツは総合芸術であり、そこでは映像・音だけでなくあらゆる素材(アセット)が入り交じってひとつのシーンを構成します。

したがってどんな優秀な監督であっても、最終工程で全ての素材が出そろった段階でしか最良の判断ができない箇所が残るものです。事前に全てを取り決めて後戻りができないパイプラインでは、それらは修正ができない部分、対応しきれない部分として残ります。

多くの場合、それらのアイディアは次回作へと持ち越されますが、Unityのようなリアルタイムレンダリングのソリューションでは、次回作に持ち越す必要はなく、今 目の前で制作している作品に投入することができると言えます。



プリレンダリングとリアルタイムレンダリングでは目指しているクオリティのゴールが違う

プリレンダリングとリアルタイムレンダリング、両者が生成する絵のクオリティは、単純比較すれば絶対にプリレンダリングのほうがクオリティは高いです。

なぜならリアルタイムレンダリングは(プリレンダリングとの比較で)様々な部分を省略することによってリアルタイム(1秒間で最低30フレームの絵を出力すること)を保っているからです。1フレームあたりに無制限に時間をかけることができるプリレンダリングのクオリティに追いつくことは理論上ありえません。

しかし、映像コンテンツのクオリティは1フレームあたりの絵のクオリティが高いことだけで決まる訳ではありません。

これは先に説明した通り、映像コンテンツのクオリティはシーンを構成する様々なアセットとの相互作用で決定します。リアルタイムレンダリングが保証するクオリティとは、これらのアセットとの無限の組み合わせを「監督が変えてみた」その修正の結果を瞬時に完成クオリティで出力することにあります。

これがプリレンダリングだったらどうなるでしょう? ほんの僅かの修正でも、その結果を確認することができるのは1週間後・・・下手したら一月後かもしれません。そう考えるとプリレンダリングの場合、1フレームあたりの絵のクオリティを映像コンテンツのクオリティに直結させるためには、レンダリング前に全ての選択が完璧になされていなければ意味が無いのです。


Unityの映像ソリューションは日々進化している

実はこうした考えのもとでUntiy Japanは映像制作の分野でも日々研究開発を続けています。

たとえばUnity Japanで開発したツールの代表例は「ユニティちゃん・トゥーンシェーダー2」や「Mesh Sync」などが挙げられます。これらのツールはすでにプロの現場でも積極的に採用されています。

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また、Unity Japanでは日本のアニメスタイルクオリティをリアルタイムレンダリングのUnityでも制作可能なワークフローを鋭意開発中です。この話は先月(2020年2月)のVFX-JAPANで少し紹介させてもらいました。



さらにUnity全体でも、映像クオリティや制作効率化は飛躍的に向上しています。

たとえばHDRP - High Definition Render Pipelineという忠実度の高いグラフィックス表現が可能なレンダリングシステムなどが登場しています。下の写真はUnityのデモチームが制作した『The Heretic』というショートムービーのワンシーンです。

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同じくHDRPを使用したデモとしては、こちらの自動車の映像デモもあります。どちらかは実車で、もう一方はUnityでレンダリングしたもので、2つの映像をまぜこぜにしてつないでいます。皆さんは見分けがつきますか?



これ以外にもUnityには映像制作には欠かせない機能も豊富にあります。もちろんゲームや他の開発にも使えます。このあたりの話題は昨年Unityで制作したショートムービー『Sherman』のポストモーテム記事に書かれています。ちょっとテクニカルな内容ですが、覗いてみるのも良いかと思います。



こうしたUnityの映像ソリューションの話はまた後日に別記事で書きたいと思います。

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