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陽に映えたガスパチョ

 ガスパチョとは、スペインのアンダルシア地方で生まれたとされる料理で、スペインの暑い夏を乗り切るために考え出された、生の野菜やパンをすりつぶしてどろどろにした冷たいスープだ。
 「飲むサラダ」とも言われて、アラビア語で「びしょぬれのパン」という意味なのだそうだ。
 スペインの映画監督、ペドロ・アルモドバルが撮った「神経衰弱ぎりぎりの女たち」で、主人公の女性がガスパチョを作り、この特製ガスパチョが映画の要所要所でおもしろいスパイスとして活躍する。その材料であるトマトをざく切りにするシーンを、カメラがアップで横アングルから写す。切り口の断面は、スペインの強い日差しを受けて、みずみずしく輝いている。
 このまぶしいほどの映像に感化された俺は、以来、こつこつとガスパチョ作りにいそしむようになった。料理は面倒であまり好きではないのだが、何事にも例外があるように、ガスパチョは作っていておもしろいとおもう。
 いうまでもなく、トマトを切るときはいつも、さんさんと降り注ぐスペインの陽の中に俺はいる。 

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