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レッド・プラトーン 14時間の死闘

『あらゆる場面にジョークは必要である。ジョークが必要ないのは、敵国に対する戦線布告の瞬間だけだ』という、イギリスのジョークがあるぐらい、この世界を生きていく上で、ジョークは欠くことのできないものであろう。

ジョークは、人生に鮮やかな彩りを与えてくれるものだし、逆に言えば、粋なジョークを全く理解できない人は(日本人のおっさんに多い)、それだけ不幸で救いがない、とも言える。

本書『レッド・プラトーン 14時間の死闘』では、殺るか殺られるかの極限状態の中で、様々なジョークが兵士の間で飛び交う。

戦闘前哨キーティングが、早朝に突如、重武装のタリバン戦士300人によって包囲され、猛烈な襲撃を受ける。

兵舎で眠っていた米軍兵士たちは、慌てて飛び起き、装備を身につけると、表に出て言う。「やつら、今日はずいぶん早くおっぱじめたな。よし、だれかを殺しに行こうぜ。」

強烈な集中砲火の中で、「へい、あんた。調子はどうだ?」「あまりよくない」「心配してもはじまらないぞ、どうせきょうはみんな死ぬんだ。」

被弾した腕に、仲間が包帯を巻いてくれたら、「学校へ行く服を着せてくれてありがとうパパ、お行儀よくすると約束するよ。」

攻撃ヘリコプター、アパッチが救援に駆けつけて、多くのタリバン戦士を上空から機銃掃射するも、戦闘から離脱して戻らなければならなくなると、キーティングから無線でアパッチのパイロットに、「あら、せっかく機関銃の射撃がやんだっていうのに、あたしたち、セックスできないの?」

死の狭間で兵士たちは、このようなシニカルなジョークを言い合うことで、精神の均衡を保っているのだ。


たしかに、普段の生活で、我々は、辛辣な言葉をジョークとして受け取るには、自身の心にある程度の余裕がなければならない。そして、だからこそ、常にその余裕を持ち合わせていようと必死になって努めていれば、この世は、ずっと生きやすくなってくるのではないだろうか。


キーティングの小隊兵舎の壁には、前の住人が書いたであろう、こんな落書きがされていたという。


「いまよりマシにはならないぜ(It doesn't get better)」

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