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短編小説「雨上がりの虹」

突然の雨。

私は慌てて駅前の商業施設に逃げ込んだ。

雨に濡れた髪を整えながら、ふと違和感を覚えた。
フードコートの近くで、一人の小さな女の子が不安そうに辺りを見回している。

私は女の子に近づき、しゃがんで目線を合わせた。

「どうしたの? 」

女の子は瞳に涙を溜めていた。

『ママが…ママがいなくなっちゃった…』

「そっか…。でも、大丈夫。お姉さんと一緒にママを探そう?」

私は優しく微笑みかけ、小さな手を握った。

女の子の手は冷たくて震えていた。
私は思わずその手を両手で包み込んだ。

「さぁ、行こう?」


私たちは手をつないだまま、フロアを歩き始めた。

『お姉ちゃん、ママどこにいるかな…』

「きっとすぐに見つかるよ。ママもきっと探してるはずだから」

女の子は少し安心したように、小さく頷いた。

私たちはエスカレーターを上下しながら、丁寧に探し回った。

そのうち、女の子は少しずつ元気を取り戻してきた。

『お姉ちゃん、さっきね、ママとケーキ屋さんに行ったの』

「へぇ、おいしかった?」

『うん! すっごくおいしかった! いちごのショートケーキだったの!』

その無邪気な笑顔に、私も自然と笑みがこぼれた。


30分ほど経った頃、遠くから慌ただしい足音が聞こえてきた。

『ママーー!!』

女の子の手が私の手から離れ、駆け出していった。

母親は涙ながらに駆け寄り、女の子を抱きしめた。

『ごめんね、心配したよ…本当にごめんね…』

私はその光景を見て、胸が熱くなるのを感じた。

母親は何度も頭を下げながら私に感謝を述べた。

『お姉ちゃん、ほんっとに、ありがとう!』

一通り泣き終えた女の子は、私に抱き着きながらそう言った。

私は彼らを見送りながら、ふと空を見上げた。
いつの間にか雨は上がり、薄っすらと虹が見えていた。

(ああ、なんだかいい日だったな…)

私は水たまりを避けながら、軽い足で帰路に着いた。

その日以来、雨上がりの虹を見るたびに、あの小さな出会いを思い出す。

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