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短編小説「最後の1218」

びっしりと埋め尽くされた数字の並び。
ついに合格発表の日がやってきた。

会場には多くの受験生とその家族が発表を待ちわびていた。

現代には珍しく、受験当日の会場で巨大紙が張り出される方式の発表である。
オンラインの発表よりも緊張感が半端じゃない。

でも大丈夫。
恩師に自分の決意を話したあの日から、私は無我夢中に努力してきた。

彼には、とても感謝し切れない。

面談では私の夢を快く受け入れてくれた。
受験日には会場で力強く送り出してくれた。

そして、部活の仲間や友人にも感謝したい。

時々、息抜きで引退した部活に顔を出した。
後輩たちはそんな私を嬉しそうに迎え入れてくれた。

残り少ない行事を楽しんで、日々の会話で笑い合った友人たち。
勉強も面接の練習も一緒に続けた友人たち。

彼らは勉強だけだった学校生活に華を与えてくれた。
すべていい思い出として心の中に刻まれている。


その時、自分の鼓動が大きく激しくなっていることに気づいた。

ずっと並んでいた列が減ってきて、やっと数字が見えるかどうかのところまでやってきた。

先に結果を見た人が、列から外れて帰っていく。

笑顔いっぱいの者、肩を落として俯く者、喜び叫ぶ者、顔を隠してうずくまる者、抱き合っている者、無表情で点を仰ぐ者など、反応は様々だ。


ついに、数字が見えた。
受験票を持つ手が震える。

1201…04…06…09…10…13…16…17…18…21…26……

「1218!!! あった!」

私の受験番号だ。

その瞬間、体の緊張が一気に抜け、その場に膝から座り込んでしまった。
騒がしいはずの、周囲の音が遠くなってゆく。

頑張って…よかった…!

脳裏に人の顔が浮かぶ。

(ありがとう…)

目に涙が溢れ、頬を伝って落ちていく。


ゆっくりと立ち上がると、秋のまだ温かさの残る風が顔を撫でていった。
目頭を押さえて、空を見上げる。
なんと澄み切った青空だろうか。

合格発表の紙をもう一度見つめ、私は静かに会場を後にした。

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