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支援者だって「助けて」と言いたい KOBLE Projectの目指すもの

この数年「多機関連携」が色々な領域で語られるようになりました。

なぜ、多機関連携が注目されるのか。

この背景には、問題への対応能力・解決能力を向上させるという点があるわけですが、より大事な点として「支援者が支援される関係」を目指すということが挙げられます。

支援者だって「助けて」と言いたいし、「助けて」に応えてくれる誰かを必要としています。


1.多機関連携は異文化交流

「多機関連携」「多職種連携」は、専門家/職や機関が力を合わせて、一つの事例・問題解決を目指します。しかし、これがなかなか難しい。なぜなら、組織が違えば「文化」や「価値観」も違うからです。
領域ごとに文化・価値観・行動様式は異なりますし、同じ領域でも派閥やグループごとに、また「違い」があります。

例えば、性教育。
学校教育の現場では、長らく「寝た子を起こすな」ということで、
積極的な性教育を実施することへのためらいがありました。
教えてしまったら、その知識が悪いほうに使われてしまうのではないか、
興味本位で誰かを傷つけてしまったら・・・。
疑念は絶えません。

一方、保健医療の立場からは「正しい知識を」と、
性教育の推進が目指されてきました。
自分/他者の心身と権利を守るためにも、性に関する様々な知識とスキルが必要というわけです。
オランダでは早期の性教育が「セクシャルマイノリティや多様な性に関する現象への理解を深める」として推進されていますが、
性感染症の問題、若年の妊娠・中絶をめぐる問題など、
実際に「問題が起きた後(事後)」の対処を求められる保健医療では
予防的な観点からも教育の必要性を指摘してきたわけです。

情報を先に与えるのが良いのか、ある程度まで触れさせない方がいいのか。

教育実践を通して被教育者の価値や考え方に踏み込む教育と、
統計データをもとに治療的に支援する保健医療と。

それぞれの領域の文化や特性、「正しい」と思う考え方が違えば、
時にそれが「対立」を生み出してしまうわけです。

どちらが「正しい」のか誰にもわかりませんし、
その裁定を下せる「神の目」など存在にしないにも関わらず・・・です。

多機関連携とは異文化交流。

自分の知らない、新たな価値や行動との出会いという点では、どちらも同じです。



2.KOBLE Projectのねらい

KOBLEは、ノルウェー語で「繋がり」を意味します。

2019年にメンバー数名とノルウェーの刑事司法・立ち直り支援を学ぶ旅をして、多種多様な専門家で支援する「社会復帰モデルの刑務所処遇」に触れてきました。

学んだ「繋がり」の意味を、支援者を支えるネットワークづくりに役立てたい。

そうしてできたのがKOBLE Projectでした。

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このKONLE Projectは、2019年にスタートした「矯正施設からの社会復帰における当事者参加型多機関連携体制の構築に関する研究」のために集った仲間を中心に、領域の壁を超えた交流を目指す人たちの集まりです。

矯正施設職員、社会福祉士、児童福祉施設職員、保護司、研究者、大学院生などが
集まって、①組織間連携に関する理論の勉強会、②多職種・多機関交流のための対話的方法の開発、③矯正施設職員向けの多機関連携を促進する人材育成研修プログラムの開発などを行ってきました。

​非行や犯罪からの立ち直り支援には、
施設内処遇(少年鑑別所、少年院、刑務所での教育・支援)から
社会内処遇(保護観察、更生保護施設・児童福祉施設での生活)への
文化的な「移行」を経験するので、なかなかに厄介なものです。

というのも、社会から施設生活への適応(第一の変化)、施設から社会生活への適応(第二の変化)、「元施設経験者」としての社会生活への適応(第三の変化)という激動期を支えることになるからです。

例えば、病気になり長期入院を余儀なくされた時、入院生活そのものに慣れる時間は必要ですし、ようやく入院生活に慣れた!と思ったところで「退院」となれば、改めて日常生活へ慣れる時間が必要となります。
しかも、病気を経験して後遺症や身体感覚に変化があれば「そういう新しい自分」で生活する日常に慣れなければなりません。

身体も慣れない上に、気持ち的にも不安やストレスでいっぱい。

立ち直り支援には、こうした浮き沈みの激しい「私」に寄り添い、
様々な事態を共に経験しながら支援するという側面があります。

この時期は、本人も辛いですが、支援者自身もなかなかに辛いものです。

時に八つ当たりのような感情の起伏を受け止めたり、
「新しい自分」に適応しようとする「私」のニーズに応えるべく奔走したり。
様々な支援メニューを用意しても「私」がそれを受け入れないこともあるでしょう。それでも、諦めずに寄り添い続けるわけです。

とはいっても「支援者」は、何でも屋さんでもなければ、スーパーマンでもありません。できること、できないことはありますし、「私」のSOSに24時間いつでも応えられるわけではありません。

支援者にも「自分の生活」があり、家族がいて。プライベートで支えたい人もいるでしょう。支援者自身が悩みを抱えて、誰かに「助けて」と言いたいこともあるでしょう。

支援者と被支援者は、明確に線引きされた「対岸の誰か」ではなく、
同じ彼岸に寄り添う「一人の人間」です。

できないことは、できないといっても良い。

その当たり前の「権利」を保障するために、
支援者同士で助け合いのネットワークを作っていこう、
他組織について勉強・交流を重ねて理解を深めよう。

それがKOBLE Projectの目的です。



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2021年のKOBLE Projectは、
オンラインでの定例会(勉強交流会)を継続しつつ、
少年の社会復帰に関する研究会(代表:駒澤大学 伊藤茂樹)と共催で、「少年院の諸問題を考えるセミナー」を実施します。
全6回3000円で、6つのテーマに関する学びと見逃し動画の視聴ができます。
参加資格は、矯正施設・刑事施設職員、更生保護・支援関係者です。
関連する各種勉強会やイベント情報も提供します。

さらにKOBLEメンバーの支援者で書籍企画が進行中です。

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