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自分自身を無にするということ。

人生とは、下降運動である。この世に生まれ落ちたその瞬間から、その身が汚泥へと成り果てるその時まで、人は絶えず下へ、下へと落下を続ける。この力は、「重力」のようなものである。
いかにしてその力から逃れられようか。
いかにしてその力から免れられようか。
ーただ、「恩寵」によってのみ、である。
「恩寵」とは、満たすものである。
しかし、恩寵を迎え入れるには擬似的な真空状態が必要である。それは、全てを捨て去ることによって実現される。何かしら絶望的なことが生じなければならない。真空状態にまですべてをもぎとられて、恩寵を待つ。恩寵でないものは全て捨て去ること。しかも、恩寵を望まないこと。

運命を愛すること、それは、全ての欲望を虚しくすることに他ならない。あらゆるものの内容を無にすること、むなしく望むこと。私達の欲望を、様々な幸福への執着から離れさせて、待つこと。
それには、単なる不幸だけでは十分でない。慰めのない不幸が必要である。
負い目をゆるすこと、未来にどんな代償も求めずに、過去をそのままに受け入れること。それは、死を受け入れることでもある。

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