文系ポスドクはどこへいくのか?

ご無沙汰しております。レポートの採点や日常の仕事に追われ、ついつい更新が滞ってしまいました。高円寺改め、佐藤です。「別にこのブログを匿名でやっている意味もないのではないか?」と思い、本名でやることにしました。また、プロフィールに研究者プロフィールへのリンクも追加しました。先輩から連絡を頂くなど、実名でやることも大事だなと感じています。

今回は「文系ポスドクはどこへいくのか?」という題で、文系ポスドクの就職先について書こうと思います。「文系院生はなぜ生まれるのか?」が「文系院生はどこからくるのか」だとすれば、今回はその姉妹編になりますね。

「文系ポスドクの就職先」という論点の誕生

そもそも「文系ポスドクの就職先」という論点は、非常に「現代的な」論点だと思います。これまで何度か指摘したように、ある時代まで、博士後期課程を修了・満期退学した文系院生の多くは、「助手」や「助教授」というポストに就いていたからです。つまり、博士後期課程への進学が研究者になることとほぼ等しい時代がありました。

ここでいう「ある時代」とは、あくまでも推測になりますが、現在60歳前後(1960年前後生まれ)の先生方が「助手」「助教授」になられた1990年頃までです。1991年(平成3年)に行なわれた「大学設置基準の大綱化」以降、日本の大学は「多様化する学生のニーズ」に対応するために、科目数を増加させる一方、経費削減のため専任教員の数を減らし、非常勤講師を増加させ続けており(もちろん、これは少子化による収入減にも関わります)、この傾向は今度も継続されることが予想されています※1。つまり、「大綱化」以降、「文系ポスドクの就職先」という論点は生まれました

※1 吉田香奈、2012、「教養教育のカリキュラムと実施組織に関する位置考察――実施組織代表者全国調査(2011年)の分析より」『広島大学高等教育研究開発センター大学論集』44,195-210.

文系ポスドクはどこへ行くのか?

それでは、文系ポスドクはどのようなところに就職するのでしょうか? というか、文系ポスドクは大学を出たらどこに行くのでしょうか?

今から10年以上前の調査ですが、文部科学省に「博士課程修了者の進路実態に関する調査研究」(平成22年=2010年)という身の毛がよだつ調査の記録が残っています(調査の委託先は、株式会社日本総合研究所)。平成21年度中に博士課程を修了した人全員を対象とするために、 博士課程を有する全大学院に対して、 「平成 22 年度学校基本調査」において博士課程(一貫)、博士課程(後期)修了者を計上した大学 (平成 21 年度に博士課程修了者が存在した大学)を対象として調査を依頼したそうです。すごい。

「2.3 学位取得有無、在学時の学生の種類と進路状況の関係」(p.35)で、学位取得者よりも単位満期取得退学者のほうが非就職者が多いなど、様々に興味深い記述がある調査ですが、中でもこのブログに関係していて、かつ最も背筋が凍る箇所は、報告書1の「図表 21 本調査時点(11 月)の職業 (専攻分野別)」(p.41)ではないでしょうか。それは、下のような図です。

博士後期課程就職者

この図について、報告書ではこう書かれています。

専攻分野別に進路状況を整理する(図表 21、図表 22)と、人文科学分野、社会科学分野では、他分野と比べて、被就職者〔非就職者の誤記?〕の割合が相対的に高く、就職者の中では大学等に進む者の割合が総体的に高くなっている。人文科学分野、社会科学分野では他分野と比べてよりアカデミアを志向する傾向にあるとも解釈でき、一方でよりアカデミア以外の受け入れ側のニーズが少ないということも考えられる。(p.41)
理学、工学、農学分野は、民間企業および公的研究機関に進む者の割合が他分野と比べて相対的に高く、特に工学分野は大学等に進むものよりも民間企業に進む者の割合が高い。保健分野については、大学等に進むもの(就職者全体の 53.8%)と医療法人などの非営利団体が含まれる「その他・無所属」の者(就職者全体の 29.5%)の割合が高い。 (p.41)

わざとわかりにくく書いているのかな?と思うような文章ですね。。一言で言えば、人文科学・社会科学系の「文系」博士後期課程修了者(満期退学を含む)は、理系に比べ、全然就職していない(できていない)ということが明らかになったわけです。人文科学はなんと6割近い数字ですし、社会科学でも5割近い数字です。もちろん大学の人事は、とくに非常勤講師などは年度終了直前まで動くので調査時点からの変化は多少あると思いますが、多くの文系博士修了者は就職しなかったのです。つまり、「文系ポスドクはどこへいくのか?」という問いには、こう答えられます。「よくわからないが、あまり就職はしていない」――。

次の問い――文系ポスドクはなぜ就職しないのか?

では、理系に比べて、「文系」博士(後期)課程修了者の非就職者が多いのはなぜなのでしょうか? 報告書はその理由を直接答えていませんが、先ほど引用した次の箇所は、その問いに間接的に答えています。

人文科学分野、社会科学分野では他分野と比べてよりアカデミアを志向する傾向にあるとも解釈でき、一方でよりアカデミア以外の受け入れ側のニーズが少ないということも考えられる。(p.41)

つまり、先の報告書では、「文系」博士(後期)課程修了者は理系に比べてアカデミアを志向するから就職者が少ない」と、アカデミア以外の受け入れ側(民間企業)のニーズが少ないから就職者が少ない」という二つの仮説が出ているのです。

では、この二つの仮説は、どちらが正しいのでしょうか?……という問いは別の問いになるので、次回にしましょう。お読みいただきありがとうございました。



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