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母、三女の受験に向けて牛肉ステーキと鯛めしを振る舞う。

明日は三女の受験当日。

受験日の前日から地方に住んでいる母と三女が私と次女が引っ越してきた家に来ている。

今日の母は、いつにも増してとにかく落ち着きがない。

私の食器にケチ付けたり、新しい家の不備を嘆く。

「あんた、このコップは内側が茶色いから何が入っているかわかりにくいね」「あんた、この家の浴槽は保温性があるの?」

母の口はとどまることを知らない。

「あんた、冷蔵庫がいっぱいだよ!!冷蔵庫に物が入らないのが一番いやだ!」
いやだって言われるとこちらまでなんだかすごい嫌な気分になってくる。とにかく、止まることなく騒いでいる。

三女にどうしても温かいお弁当をもたせたいから、大量の食材とお弁当箱を実家から持参してきたようだ。
味噌、ヨーグルト、ヤクルト、レンコンの炒め物、切り干し大根、朝の味噌汁の野菜と豆腐。

冷蔵庫を開けておいて欲しかったと、ずっと言っているが、そんなことは先に言ってほしい。それなら、もう少し買うのを抑えておいたよ。一人用の冷蔵庫は小さいんだから。

大学に入学してから早7年が経とうとしている。私はこれまでのびのびと一人で好きなように暮らしていたのに、こんなふうに騒がれることは心外だ。

「牛肉を買いに行かないとだよ」と半ば叫びながらいい、母は私を連れてスーパーへ行く。スマートフォンを持ち始めてから5年いまだ使いこなせていないので、道を調べて一人で歩くということをしない。そのため私がマップ代わりになったのだ。引越し翌日で疲れているというのに。
徒歩5分圏内にスーパーがないから、歩くのも一苦労。一人なら自転車でぴゅーっと行くが今日はそうもいかない。

そういえば私の受験の時は祖母がついてきたが、前日何を食べたかなあ、ビーフシチューだ!泊まったホテルの最寄駅の駅ビルの中のレストランでビーフシチューセットを食べたんだった。受験の前は牛という決まりでもあるのだろうか。母の家系は。わたしも妹の受験の応援はしたい。でも、母の大騒ぎには疲弊している。母の過剰な三女へのケアにも。

スーパーでも、「東京の野菜は高い」だの「肉も半額になってない」だのいろいろと騒いでいたが、行って帰ってきたら、母は少し落ち着いてきたようだ。
無事に牛肉のステーキと味噌汁、副菜を作り終えた母は、温かいうちにすぐに食べるよう三女に言う。

私と二女には、その間も文句に加え、さまざまな指示を休みなく出している。

やっと台所周りが落ちついて、みんなが食卓についた。三女がおいしいと言うと、母は「そう〜?」とにっこり。「ピアノの先生が、牛肉のステーキを食べさせてあげてって言ってたからね!」と意気込んでいる。

はぁ、。
これから、実技試験の事前練習のため、家から15分ほど歩いた先にある練習室にも付き添わなければならない。

今日は、はやくねたいなぁ、でも、家も片付けたいなぁ、書き物もしたいし、、。

でもみんな(わたしも次女も)なんだかんだやる。三女のキャラクターがそうさせるのか、母の圧がそうさせるのか否か。

その日の夜は腹の奥で牛肉の塊がどっしりと居座っている感じが鬱陶しくも、それは私に何だか安心感を与えた。

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