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おいしさをデザインする。vol.3

第3回目は旨味と風味についてお話ししていきます。

旨味はご存知の通り、おいしさの核となる成分で、グルタミン酸やイノシン酸、アスパラギン酸、コハク酸などです。これは食材ごとに持っているもので、その組み合わせによって相乗効果は生まれます。

これは日本人が得意としている部分で、旨味の研究は日本がかなり進んでいます。そして料理人も使う事が得意な人が多く、様々な食材の組み合わせがあり、それによって料理が生まれている部分もあります。

もう1つの風味は、大切と言われながらも深く理解して用いている人は少ないように感じます。風味とは旨味のように相乗効果のあるもので、組み合わせによっておいしさの幅がかなり変化します。

主に風味は直接的に人に作用するので、おいしい記憶を引き出したり、香りによって感情が揺さぶられたりします。これは旨味とはまた別の力があり、旨味と風味を組み合わせる事で更なるおいしさの扉が開いていきます。


風味の相乗効果とは?


僕は昔から香りが好きで、フランスから帰ってきてからは食材ごとの香り成分を調べ(ググる)その相性の良いもので組み合わせを考えたり、今まで自分が相性がいいと思っていた組み合わせの香り成分を調べて答え合わせをしたりします。

それは、香りのよっておいしさも人の感情も変化すると感じていたからです。僕はこれがとても大切だと思っており、人が何を美味しく感じるかを考えるようになったのです。

人は鼻をつまむと香りがわからなくなり、味を感じにくくなります。どれだけ旨みがあろうとも、味気なくなってしまう。しかし風味がどれだけ良くても旨味や6味が整っていなければ、ギャップによっておいしく感じなくなります。要はバランスがとても大切で、その中でも風味のしめるウエイトがかなり高いと感じたのです。

ではなぜ風味が大切だと思ったか?それは僕が食べておいしいと感じた料理の共通点を考えた時に、余韻が長い、記憶に残るという2点があり、そこに強く寄与しているものが風味であり、そこまでおいしいと感じなかったものとは明確な違いがありました。

それには昔から残っている組み合わせもあり、人が感覚的に心地よい、相性がいいと感じる組み合わせが長い年月残り、愛されているという事です。香りの成分的に相性の良いものは組み合わせると香りの相乗効果が生まれる。そう仮定したときに、香りの成分から食材の組み合わせが定義できる、と考えました。

香りのプロといえば調香師ですが、僕は香水にも興味があり、香水の歴史を調べたり、グラースという香水の街にも足を運び、様々なものを学びました。そしてフレーバークリエイションという調香師向けの専門書と出合い、それがきっかけで更に香りの成分について学ぶようになります。


香りの成分は未だ解明されていない。


食材の香りの成分は驚くほど数が多く複雑に混ざり合って作られています。その全ては解明されておらず、食材と全く同じ香りを再現するのはとても難しいと言われています。なので、食材の香りを決める大部分の成分がわかったところで、本当の意味での香りのペアリングは難しいのですが、だからこそ無限の可能性があると感じています。

香りは甘い香りも酸っぱい香りも苦い香りもあります。これらは6味や旨味と連動するので、酸っぱい香りを強調したければ酸味のある料理にすればいいし、甘い香りを活かすなら甘味を感じる料理にすればいい。

香りの力によって人の味の感じ方が変わるので、そこまで計算したおいしさのデザインが必要になります。しかし、風味単体では効果が薄いので、基本は全てのバランスの問題となり、立体的なおいしさの構築が必要で、全ての要素についての知識が必要になります。

食べ物をおいしいと感じるには、口に入れた瞬間から、飲み込んだ後の戻り香までを繋げる必要があるのですが、そこには明確な順序があります。

鼻で香りを嗅ぐ、口に入れる(舌に触れる)、パウダーやオイル、液体に近いものを感じる、舌で潰せる硬さのものを感じる(ジュレやピューレ)、咀嚼する素材を感じる、強く咀嚼する素材を感じる、飲み込む瞬間の喉越しを感じる、飲み込んだ後の戻り香を感じる。とざっくり書いてもこれくらいの流れがあります。

そして、複数種類の食材が並ぶ料理であれば、それぞれの食材がどのような形で、どのような温度で、どのような食感で、どの味わいで使われているか?を計算して使う必要があり、そこに風味の相性が重なります。

鼻で嗅いだ時にどの香りを強く感じ、口に入れた瞬間にはどんな旨味と風味を感じるのか?そこからゆっくりと始まる咀嚼の間にどのような旨味と風味が順々と流れていくのか?その風味の流れと旨味6味の流れは美しいのか?などのバランスが求められる。

ソースなどは口に入れた瞬間に味を感じますが、咀嚼するものは咀嚼しおわる最後まで味を感じます。なので、最後まで味を感じてもらいたいものは咀嚼するサイズに整えておく必要があり、その味わいで終わらせる必要があります。

この最後まで感じる味わいがその料理の印象を決めるので、とても重要で、その場合最初に感じるソースやパーツが最後に感じる主食材を引き立てているか?が重要です。また、途中で咀嚼するサブの食材の香りによって味の変化をつけることもできるので、咀嚼中の味や香りの変化もコントロールできます。(ある程度は)

1皿の料理、1皿のケーキにどれだけの変化を用意できるかで、食べ飽きにくく、印象付ける事ができるか?が左右され、この微細な変化を調節することが印象に残る、記憶に残るおいしさのデザインだと考えています。

これはチーズケーキという、1本がほとんど同じ味のケーキでも同じで、温度帯で感じる香りの変化を設計し、口の中での変化を調節します。また、解凍具合で香りの感じるゾーンが違うので、また違う味わいや風味の変化もある。

物理的に別の食材を混ぜ込めば、この調整も楽なのですが、独特の滑らかさを活かす場合に、別の食材が入ることやボトム(クッキー生地)が入ることが僕はノイズになると考えているのでできるかぎり混ぜ物はしないように意識しています。

その方がケーキ単体に込められた風味の変化に意識を向けてもらえると感じているからです。(難しい部分が多いですが)

風味のバランスの具体例は次回に書いてみたいと思います。この話題に誰が興味があるか分かりませんが、お付き合いください、、、。

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新しい料理人の働き方から、個人でどう生きていくか、どう価値を生みだしていくかを色々な視点で書き綴ります。月3~4回ほどの更新なので、定期購読がお勧めです。

曜日や時間、場所に捕らわれずに料理を自由に表現するためにレストランを辞めた料理人の働き方を変えていく奮闘記。 これから増えていくだろう料理…

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