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おいしさをデザインする。vol.1

以前僕はこのようなnoteを書いているのですが、改めておいしさをどう表現しているのかを書いていこうと思います。

そう思ったきっかけなのですが、先日clubhouseでこのような機会を作ったからです。

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僕は2年前くらいに東大の工学部向けに講義を持った事があり、その時に授業に参加してくれたマサキ君が色々と面白い研究?趣味?をしていたので、一緒に話そうと声をかけました。マサキ君のnoteはこちら!

料理とは根本的にサイエンスで、調理科学が必須です。加熱による変化や脱水による変化、僕たち料理人が当たり前にやっている調理には常に科学的変化が存在しており、なぜこのように変化するのか?は解明されていることが多くあります。

僕は料理や製菓に携わる人間として、最低限は理解すべきだと思っていて、その中でも塩や砂糖の性質や、加熱(焼く、煮る、蒸す、揚げる等)の食材に対する熱源の違いによる変化や性質の違い、そこから得られる食感や味わいの違いなどを、感覚的なものだけではなく論理的に理解することでおいしさの再現性を高くするべきと考えています。

その中でもお菓子はほぼ全て科学で出来ているようなもので、食材の性質に合わせた使い方をします。卵がその最たるもので、どのように泡立てるか、どのように加熱するか、卵黄なのか卵白なのか全卵なのか?で得られる効果が全く違います。

砂糖も吸水性もあれば保水性もあり、加熱によるメイラード反応で旨みを強くすることもできる。どの効果をどのように利用するかで製菓の考えは変わり、それを基本食材(砂糖、卵、バター、小麦粉)の組み合わせで幅広い表現をするとても奥の深い世界です。錬金術と言われるのもよく分かります。


サイエンスは食材だけではない。


科学的アプローチを学んでいくと、食材だけではなく人のことを調べるようになります。人は料理をどのように感じているのか?ということです。おいしいをおいしいと認知するにはどのようなプロセスがあるのか?

味覚で感じている事と脳が判断していることは同じなのか?おいしいとは味覚なのか?嗅覚なのか?視覚なのか?何が一番の要因になっているのか?口から食べるからといって味覚だけで判断しているわけではなく、複合的な判断をしているのならば、料理という物理的なおいしさだけを突き詰めるだけでは足りていないのではないか?と感じるようになりました。

僕は料理人という仕事をしているので、おいしさに対する解像度は高い方だと思います。そして小さな頃から母の料理を食べていたり、良い食材と触れる機会もあり小さな頃から無意識に味覚を鍛えられていました。これがなければ今の料理人としての僕はいなかったでしょう。

少し話がそれましたが、おいしい食べ物とは、おいしいという単体の要素が存在するわけではなく、おいしさに関連するあらゆる要素の複合体であり、それは状況によって変化する極めて変数の多いものである。という認識が大前提必要になります。

これは料理単体でもそうですが、そこからさらに空間や時間、誰と過ごすのか?どんな音楽が流れているのか?光は何色なのか?などと、環境要因が複雑に絡み合っており、それら全てを整えることがおいしさを提供することであると僕は考えています。(なので全然出来ていない)

レストランという空間はそれらをコントロールしやすい環境ではありますが、そこまでコントロールしてる人を僕は知りません。フェルマーの料理の岳や海は、その境地を目指していそうですが。

僕はフェルマーの料理を見た時にとても感動したというか、自分が考えていたおいしさの探求に近いものを感じました。大前提として、科学と知識で料理をおいしく感じるとは思っておらず、それを活かしてどうやって温かみを伝えるか?や記憶に訴えかけるか?が大切で、科学的なアプローチによるおいしさの言語化をトランスレートする人やストーリーテリングできる人が必要で、それは製作者本人であるべきだなと僕は感じています。

技術屋はどうしても技術主義になってしまいがちなのですが、あくまでも技術は手段であり、科学的知識もアプローチも手段。目的はおいしさで人の心や生活を豊かにすることなので、技術や知識を振りかざすのではなく、それによって人の心にどう触れるか?を常に考えたいですね。


とはいえおいしさが最重要。


とはいえどんな素敵なストーリーや想いがあっても、物がおいしくなければその力は発揮されません。だからこそ、おいしさは最重要です。

ではおいしさとは何で構成されているのでしょうか?以前も書きましたが、通常は5味(旨味、塩味、甘味、酸味、苦味)で構成されますが、僕の中では6味(塩味、甘味、脂肪味、酸味、苦味、辛味)と旨味と風味の8味で構成されています。

この中の聞き慣れない脂肪味とは?

油脂から感じるおいしさで、脂肪分が高いものの方がおいしいと感じやすいそうです。僕の経験的にもそう感じます。なので、おいしさを探求する上で必要な要素になっていくのでしょう。

それ以外だと辛味です。これは厳密には単体でおいしさを感じるものではなく、口腔内でのクロスモーダル下で効果があると思っています。辛味には香りと刺激がセットになっている場合が多く、口腔内で触覚と嗅覚へのアプローチが起こり、結果的に味覚への影響も出ます。

なぜ旨味を外し、辛味を加えたのかというと、6味は口腔内での影響が高く、旨味は口腔内もそうなのですが、そこから喉を通り胃に落ちるまでの全体で旨味を感じていると個人的に感じているからです。(ファクトはないです)なので旨味は深さで捉えています。深いコク、味わい深い、など、旨味は深さで表現されることが多いのも1つの理由です。

そして風味は口腔内と鼻腔に対してのアプローチであり高さで捉えています。鼻から感じる嗅覚単体のオルソネーザルと食べ物を口にした時の口腔内での味覚と嗅覚へのアプローチであるレトロネーザルの2つがあり、口より上で感じる(実際には戻り香もあるので胃からも感じる)ので高さで表現します。香り高い、立ち登る香りなど、高さの表現が多いのも香りの特徴で、範囲が広いのも香りならではです。

なので口腔内(平面)で感じる6味口から胃にかけて(深さ)感じる旨味鼻(高さ)で感じる風味の3つのカテゴリーで分けて考えています。それぞれに考えることがあり、6味のバランスもそうですが、これは3カテゴリーバラバラに整えても意味がなく全てが調律されて初めておいしさが最大化されるので、ここがとても難しいところです。

少し長くなってしまうので、今回はここまでにします。次回以降は3つのカテゴリーごとに考えていることや、それが複合的になるとどう変化するのか?そして最終的には人は何をおいしいと感じるのか?という話まで時間をかけて僕の考えていることを伝えていきたいと思います。

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新しい料理人の働き方から、個人でどう生きていくか、どう価値を生みだしていくかを色々な視点で書き綴ります。月3~4回ほどの更新なので、定期購読がお勧めです。

曜日や時間、場所に捕らわれずに料理を自由に表現するためにレストランを辞めた料理人の働き方を変えていく奮闘記。 これから増えていくだろう料理…

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