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小規模自治体の公立病院はどうなるのか

小規模自治体の公立病院での事件

知り合いから、小規模自治体の公立病院で発生した事件を教えてもらいました。

部下の横領の責任問われ2913万円支払い命じられた元上司「重すぎる」…取り消し求め提訴

 三重県南伊勢町立南伊勢病院で元職員の被告(39)(業務上横領罪で公判中)が、多額の診察費などを横領したとされる事件を巡り、被告とともに町から約2900万円の損害賠償命令を受けた元上司の男性1人が、町を相手取って、命令の取り消しを求めて津地裁に提訴したことが分かった。提訴は2月20日付。
 訴状などによると、男性は2021年3月に県職員を定年退職し、同4月から同病院事務長として勤務。被告の1億5000万円余りの横領容疑について、町から、管理監督する上司としての責任を問われ、2913万円の支払いを求められている。
 男性は、前任者から「実務は被告に任せておけばよい」と引き継ぎを受けたことや、前任の事務長2人らは横領を見抜けなかったことから、「注意義務違反がない」と主張。町が被告と元上司らの責任割合を7対3とした点についても、「故意かつ計画的、継続的に横領した実行犯と比較し、責任が重すぎる」としている。また、経理資料に違和感を覚えた男性は、被告を追及し、横領容疑の発覚に努めたほか、被告が横領を認めた後は、全容解明に努め、再発防止策も講じた上で昨年12月に退職したとしている。
 代理人の弁護士は取材に、「直属の上司だけの責任でなく、町の体質の問題だ。男性は、横領の事実を問い詰めた側で、男性が指摘しなければ事実はうやむやになっていた可能性もある。町は数人の上司に責任を押しつけてしっぽ切りを図っている」と述べた。
 一方、町側は「弁護士と相談して適切に対応していく」としている。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20230316-OYT1T50162/?fbclid=IwAR0ipwxsPpgylOt6MvyS-z91ZI9DWxWZy8T9O-bRBeYDSc6dMo0zUkMUXLI

横領事件については、三重県の地方紙に詳しい内容があります。

「一年を振り返って」南伊勢町の巨額横領事件 現金管理任せきり、ずさんな体制も露呈

三重県南伊勢町で6月に発覚した巨額横領事件。当時町立南伊勢病院で会計業務を担当していた廣出翔被告(38)=同町押渕、業務上横領罪で公判中=が約5年間にわたり、一人で横領を繰り返していた事実が判明した。被害総額は水道事業と病院事業を合わせて約1億6791万円に上り、全国を騒然とさせた。廣出被告は平成16年4月、旧南勢町役場に就職。上下水道課に勤務していた平成29年4月―31年3月末までの間、水道事業名義の口座から現金を引き出す形で着服を繰り返した。また病院出向後の令和元年5月―4年6月までの間には、病院名義の口座から現金を引き出したり、入金すべき現金の一部を着服するといった方法で横領を繰り返していたとされる。
周囲の評判は、「自分から話しかけるタイプではなく無口。ばか話をしていても自ら輪に入ってくることはなかった。いわゆる『オタク』のような部分もあったが、知識はあり仕事はそつなくこなすタイプ」。特に会計やパソコンに関する知識は豊富だったという。服装や車などに金をかけている様子はなく、発覚直前まで、誰一人着服を疑う人物はいなかったとされる。
廣出被告は発覚当初から横領の事実を全面的に認める姿勢を示しており、9月16日現在で合計987万8191円を町に弁済した。これまでの公判では、応援していたアイドルとのビデオ通話やツーショット撮影の代金、高級ブランド品などのプレゼントや風俗店の利用代金などに横領した金を使用していたことも明らかとなった。
事件発覚後、町は廣出被告を出勤停止処分としたうえで6月28日付で懲戒免職とした。また、8月1日付で第3者の弁護士に外部監査を依頼し、発生原因と損害の概要▽職員に対する賠償を求めることの可否▽損害賠償の対象者と金額▽病院事業、水道事業以外の再監査の必要性―の4点について詳細な調査と意見を求めた。
関係資料の分析や関係職員へのヒアリングなど約2カ月間の調査を経て、町が今月2日に公開した個別外部監査請求に基づく報告結果によると、上下水道課長や病院事務長ら当時の上司四人についても「企業出納員として求められる注意を怠っていた」として過失を認め、それぞれの職務権限の重要性や損害発生の原因となった程度に応じて賠償責任を負うべきと判断。損害額の3割の賠償責任を負わせることが適当とした。
上村久仁町長は7日の町議会一般質問で、「個別外部監査請求の決定に基づき賠償命令をしていく」と明言。町監査委員の決定を待ったうえで、正式に損害賠償請求手続きに移る意向を示した。今後は行政不服審査法に基づく行政不服申し立て期間を設けて、廣出被告に約1億1795万円、元上司らには責任の程度に応じて約376万―2926万円を賠償請求していくとみられる。
第一当事者の廣出被告には当然、相応の厳しい処分が下される必要がある。一方で、現金管理をほぼ一人に任せきりにし、日々の出納管理やチェック機能をおろそかにしていたずさんな管理体制も事件の背景にあり、当時の上司に対する責任追及は必至と言える。状況を見逃してきた前町長にも責任の一端はあるとも言えるだろう。
上村町長は「起きたことの責任は痛感している。二度とこういうことがないようチェック体制を整えていきたい。一つ一つ責任を持って信頼回復に努めていきたい」と話していた。

これらの記事を見て、まず、小規模自治体では、病院事業や病院会計に通じた職員を常に確保するのが厳しいことが一因だろうということを感じました。
前の記事にも書きましたが、病院の事務職は、長部局の事務職よりもはるかに多くて幅広い知識が求められます。
公務員は一般的に前例主義ですから、人事移動があっても前任者や前々任者がやった事務処理の書類を見れば、知識や経験のある職員であればそれなりに形を作ることはできます。
でも、4月の異動後に直面する前年度の病院事業会計の決算は、それまで見たことも聞いたこともない複式簿記の数字が並んでいます。これらの数字から税込み計算の決算書と税抜き計算の損益計算書、「借方って借金のことですか?」としか疑問を持つ貸借対照表、キャッシュフロー計算書という横文字の書類を作らないといけません。また、資本的収支では収入に対して支出が不足しているのに、一昨年度の決算書を見ると、損益勘定留保資金なんていう訳のわからないもので補填されていることになっていて、いったいこのお金はどこから湧いて出てきたのか全く分かりません。
前任者にしっかりした知識があって、「これはね、減価償却費と長期前受金戻入の差額その他の現金収支のないものの差額から出ているんだよ」と教えてもらえることができればまだしも、だいたいの場合は前任者も前々任者も同じ程度の知識ですから、「この参考書のここにある」は良い方で下手をすると「よくわからないけど、こう書いておけばいいんだよ」となりかねません。(それでも決算議会が通ってしまったりするところが恐怖ではあるのですが)
そもそも、規模の大小にかかわらず、自治体では長部局においても会計処理のミスがしばしば発生しており、公会計でも怪しいのに企業会計の知識に精通した職員を公立病院に配置することは可能だろうか、という気がします。一方で、だからと言って、企業会計に精通した少数の職員を張り付けてしまうことは、今回の事件のような危険な面があります。

元公立病院事務職員としては、個人的には、人事配置を行った町側の責任も大きいと感じられ、損害賠償請求された方の弁護士の「町は数人の上司に責任を押しつけてしっぽ切りを図っている」との意見にも多少頷いてしてしまいます。また、この間決算を認定してきた議会の責任はどうなるんだろう、という疑問もあります。

指定管理にすればよいのか

このような状況について、それならば小規模な自治体は直営での病院経営をあきらめて指定管理にすればよいのでは、という意見も出るかもしれませんが、実際はこの場合にも問題が発生する可能性があります。
まず、病院の開設者である自治体側に病院経営や企業会計の知識がないことを前提にしての指定管理ですから、指定管理は適切に行われているか決算報告は適正かの判断ができません。例えば指定管理受託者が、検査や給食、清掃などを関連する事業者に相場より高く委託して、そちらに利益を移して病院は赤字にして指定管理料の増額を要求する、ということもできますが、これを見抜いて指摘する力はあるのでしょうか。
また、期待した医療提供がされていないとか、職員の対応が悪いなどの住民からの苦情が出たときに、しっかりと是正を求めることは可能でしょうか。
一番の問題は、このような指摘や指導をして、それなら指定管理から手を引くと言われたときに、その自治体には、改めて病院を運営・経営する能力は残っていません。特に地方の小規模の自治体であればあるほど、別の指定管理受託者などの代替手段の確保は難しいでしょう。指定管理の段階で病院を人質に差し出したようなものになりかねません。

税理士の活用を

では救いはまったくないのかということになりますが、コスト的にもペイする方法として、税理士の活用が考えられると思います。
民間の医療機関であれば、消費税の計算などが経営に直結しますので、税理士を入れることは当然の話です。また、医療法人であれば医療法に求められる報告の適正性の証明はもとより、理事会や評議員会に正しい報告をして経営するためにも不可欠です。
自治体に税理士は似合わないという意見もあるかもしれませんが、小規模な自治体だと、監査委員も企業会計がわからない、監査委員事務局は議会事務局が兼任という状況は多々ありますから、決算の適正性を確認するためにも必要ですし、長部局側としても税理士のお墨付きをもらいました、ということで楽にならないでしょうか。
横領事件や不適正な決算が指摘されて、住民や議員から写真のような怖い顔で怒られて議会対応をじたばたするよりも、コスト的にはずっと安く済むと思いますけどいかがでしょう。

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