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古巣の病院について思うこと

元々は公務員で、働いている間に病院勤務をやったことから、退職後は公立病院向けの病院コンサルタントをやっていました。(今も細々とやっていますが)
先日とある勉強会で古巣の病院の話があり、現職時代からコンサルタントの間に感じたことを話したので、頭づくりにまとめてみます。

古巣の病院

私が勤めていた公立病院は、精神科単科の病院とバリバリの急性期基幹病院というまったく違うタイプの病院で、今回話題になったのは後の方の急性期基幹病院でした。
病床数540床で、私がいた当時で既に年間の救急車受け入れ台数が8000台を超えていました。540床は圏域で一番大きな病床数で、事務屋として見ていて、救急の最後の砦として医師始め医療スタッフ全体が誇りをもって働いるところだと感じていました。また、初期研修でも有名な病院で、ほぼ毎年フルマッチングして、応募倍率も全国トップクラスでした。

古巣の病院の状況

そんな病院でしたが、経営的には繰入金を入れてかつかつの黒字か少しの赤字になる状態でした。とは言え、急性期基幹病院ですから、新型コロナウイルス感染症が猛威をふるっていた時には、患者の受け入れも積極的に行い、また、地域の高齢者施設などへの感染症予防指導などの地域活動にも力を入れていました。そして、懸命の努力で平均在院日数を一桁にして、病床の回転を良くすることで新規の患者を受け入れるようにしていたそうです。
そんな病院について、先日の勉強会でDPCⅢ期以上が4割入院しているというお話がありました。DPCⅢ期以上が4割いながら平均在院日数が一桁なんて、一瞬頭がくらくらしたのですが、たぶん本当でしょう。

DPCⅢが多い問題

まずはDPCとは何か、Ⅲが多いと何が問題なの、ということを考えてみます。
DPCは、正確にはDPC/PDPSというもので、診断群分類別日額包括報酬算定制度みたいな訳になります。つまり、入院した患者さんお一人お一人に診断群分類を適用して、それに応じて日額で報酬額を包括的に算定する制度です。入院費や検査、投薬などの基本的な診療行為の報酬はこの中に含まれていて、手術などの報酬は出来高で算定されます。
DPCでは診断群ごとに標準的な入院期間が設定されていて、報酬単価は入院期間をⅠ期(入院直後)、Ⅱ期(平均在院日数)、Ⅲ期(平均在院日数を超えて回復期から慢性期と考えられる期間)に分けて設定されています。このうちⅡ期が基本的な報酬単価で、Ⅰ期は医療密度が高いものとして25%増、Ⅲ期は医療密度が低いので25%減になります。そしてⅢ期を超えると出来高になってさらに減ることになります。
つまり、急性期の病院ではⅡ期=平均的な入院期間までに退院させることができれば、Ⅰ期の25%アップの効果で収益が増えることになり、逆にⅢ期あるいはそれ以上の患者が増えると、25%かそれ以上減収になることになります。つまり、古巣の病院でⅢ期以上が4割いるということは、それだけで15かなりの減益になっている可能性があります。
この病院の年間の入院収益は120億円程度はあると思われますので、ざっと試算してみると、120×0.15=18億円の機会損失が生じている可能性があります。(※1)

※1 平均在院日数が短いので、Ⅰ期とⅡ期の患者の平均日額の割合を115%、Ⅲ期以上の患者の平均日額の割合を70%として試算(※2)してみる。
(1) Ⅲ期以上が4割の場合
・115×6=690
・70×4=280
計970
(2) Ⅲ期以上が2割の場合
・115×8=920
・70×2=140
計1,060
(3) (2)/(1)
1,060/970=1.15
※2 DPCの性質上、この数字は病院のデータで簡単に正確に計算できます。

なんでこの病院ではこんなことになるのか

では、私の古巣の病院ではなんでこんなことになってしまうんでしょうか。原因を考えてみます。

1 地域医療連携室の体制が決定的に弱い
この病院に限らず多くの公立病院で見られることですが、地域医療連携室の体制が決定的に弱いことが理由の一つと考えられます。
一般の人には地域医療連携室というのは耳慣れない部署だと思いますが、他院からの紹介の患者さんの受け入れの調整から、退院や転院が可能になった患者さんの受け入れ先探しと家族などとの調整まで、院内の患者さんの流れをコントロールする大事な役割を担っています。
病院のコンサルタントでは、これらの役割について、紹介患者の受け入れ調整を川上、退院・転院の調整を川下というような表現をしています。川の流れの表現で見ても分かるように、川上から川下までの流れが滞ってしまうと途中で氾濫してしまう恐れがあります。同じように地域医療連携室の機能が弱くて、患者さんの受け入れを制限したり、退院・転院ができなくてDPCⅢ期以上の患者さんが増えることは、病院の機能全体に影響を与えます。上に書いたように入院期間が長くなりⅢ期以上になると病院の収益に悪い影響を与えますが、それだけでなく患者さんにとっても良くありません。
古巣の病院もそうでしたが、一般的に急性期の病院でのリハビリテーションは急性期からの速い回復を目的としたもので、回復期や慢性期の病院で行われるようなADL(日常生活動作)の維持を目的としたものではありませんから、入院期間が長くなるとADLの低下がみられるようになります。このため、退院・転院が可能になった患者さんは、できるだけ早くそういうリハビリテーションが受けられるところに移ってもらうことが、患者さんの利益になります。地域医療連携室の体制が貧弱で退院・転院促進の機能が弱いということは、流れの悪い川が淀んで良くないように、病院だけでなく患者さんにとっても良いことではないのです。
地域医療連携室がこのような大事な役割を果たすにも関わらず、私がいたころには、古巣の病院には常勤正雇用の医療福祉士(MSW:Medical Social Worker)はいませんでした。もしかしたら今はいるかもしれませんが、十分な人数ではないでしょう。
常勤正雇用のMSWに係る人件費を、社会保険料も込みで仮に平均して1人当たり1、200万円だとして、5人雇用しても7,200万円。18億円の損失からすれば1割にも満たない数字です。
非常勤だともっと安いからそれでいいじゃないか、と考える人もいるかもしれませんが、MSWの仕事では地域の診療所や介護事業所などとの連携がとても重要ですから、こういうところのMSWや医師と顔の見える関係を作っていることが求められます。そして、病院だけでなく介護保険の制度や生活保護や障がい者の自立支援制度などの社会保障の制度についても、しっかりした知識と理解が必要です。
退院や転院の調整ではこのような知識をフルに活かした迅速な対応が必要ですから、退院しても良いと考えたときに引受先の調整を医師や看護師が行うようでは医師たちが疲弊してしまいますし、医師の働き方改革が求められている中では避けないといけません。このような病院では医師が働き続けることはできませんし、新しい医師にとっても魅力のない病院になってしまいます。また、医師の人件費は社会保険料込みで年間2,000万円を軽く超えますから、医師に医療行為以外のことをさせるのは投資効率としても非常に不経済です。医師や看護師の確保のためにも、しっかりしたMSWが必要なのです。
このようなことを考えると、常勤正雇用のMSWを確保してしっかりと育てることがどれだけ重要ががわかると思います。

長くなるので、2は次回にします。

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