林光太郎

小説家 個人的書店ものはいいよう店主

林光太郎

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最近の記事

重なり(美しい恋愛小説)

夏、てっちゃんは、スカイツリーを指差し 「美菜の手術が成功したら俺があそこの上に連れてく」 と言ってくれた。 物体を遠くへ引きずり込むような、どこまでも人々の心を不安にさせる音。周りにいた知らない人含め私とてっちゃんは同時に振動するスマホを見た。 緊急速報 東京ドーム一つ分ほどの巨大な小惑星が現在日本に接近中。大気圏を突破しました。 シェルターなど安全なところへ避難してください。  大きさの例えがテレビに影響されまくってる…とか考えていたら、てっちゃんが 「美菜、逃げるぞ

    • トオパラ!(SFチックに何かを訴えかけてきている小説)

       おじさんとカフェを通過した。  コーヒーの川を渡るとき、おじさんが滑って流れてきた計量スプーンにぶつかりそうになった。僕はおじさんを守ろうとおじさんを押し退けたが、間に合わず計量スプーンの縁が僕の目に当たって右目が見えなくなってしまった。おじさんは泣いてすまないすまないと詫び、僕はいいよいいよと言い、手を取り合って岸を渡った。 そこは異世界だった。    首の微妙な角度で海の中を泳ぎ回るこけし、 目と耳を二人で分け合い、手をくっつけて走り回るエルフ、頭に棒が何本も刺さっ

      ¥200
      • あいとともに

        「隅田川を眺めに今日の夕方一緒に行かない?」  私は図書館で本を読んでいました。読書に飽き、窓から、駅から出てくる人をボーっと眺めていました。そんな時に連絡がきたんです。  ドキッとしました。急いでエレベーターで図書館を出ます。夕方までまだ時間があったので、ちょくちょく話をしに行くオーナーのいるカフェでコーヒーフロートを飲みました。甘い気持ちでパクパクアイスクリームを食べます。一瞬でなくなってしまいました。 残ったコーヒーをちびちびスプーンで掬います。アイスとコーヒーが混

        • 8個入り450円

          夜にお店を開け、ゲームなどが遊べる商店街の夜市。 18時ごろ勉強に飽きた太一は、気分転換に冷やかしで商店街へ出た。人が多すぎて歩くだけで肩と肩がぶつかってしまう。部屋から出ていきなりの人の多さに疲れた太一は路地に避難した。 そこにはおばあちゃんが先にいた。太一はペコッと会釈して、スマホを触ろうとポケットに手を入れた。 おばあちゃんは太一の顔を覗き込み 「あの〜本屋さんまで忘れ物を取りに行きたいけど、足が悪くてねぇ。支えていってもらえないかい?」 と言ってきた。 「いい

        重なり(美しい恋愛小説)

          読めた間合い(少女のやさしさを感じる小説)

           亀戸駅へ向かう二車両の電車。東あずま駅へ止まる。僕はこの時間が苦手だ。電車に乗りこんでくる学生たち。車内が一気に騒がしくなる。僕には関わりのない人たち。そう思っていた。 一つ空いていた隣の席に、電話をしながら一人座る。僕はボーっとしていた。隣からいきなり 「ねぇおじさん! これなんて読むの??」 その子が突き出してきたノートには大きく 「間合い」 と書かれている。 「まあい、ですよ」 周りを憚り小声で伝える。 その子は電話で相手に「まあい、だよね? あははは

          読めた間合い(少女のやさしさを感じる小説)

          ごみ拾い

          僕は毎週金曜日にキラキラ橘商店街でごみ拾い活動を行っている。  墨田区に引っ越してきたばかりの僕は、この町の人と仲良くなりたかった。 そこで先に活動を始めていた仲間に頼んで活動へ参加させてもらったのだ。 しっとり濡れるごく微量な雨の降る日だった。 その日はよく行くカフェのオーナーにコーヒーをおごるからと頼まれ、錦糸町のほうにおつかいへ行った。 突然頼まれたので、ごみ拾いを一緒にやっている仲間に遅刻することを僕は連絡し忘れていた。 そうしたら近所に住んでいるおじさん

          意地(意味が分かるとキモい小説)

           オーガは額に汗を浮かべ前の試合会場を一心に見つめていた。  男は今日も鞘から剣を取り出す。毒々しく鈍い光を放つ剣は見た目によらず儚く脆い。毎日の手入れが欠かせない。

          ¥200

          意地(意味が分かるとキモい小説)

          ¥200