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鼻くそみたいな話に花束を・・・。

年明け早々の我が社は現在、とてつもなく暇である。

と言っても例年なら資料整理や協力会社、客先への挨拶回りなど多忙だ。しかし、今年は例のウイルスのせいで外出自粛になり、メールや電話で済ませることになった。よって我が社は、現在とてつもなく暇である。

めちゃくちゃ暇なので資料整理をしている中、矢島先輩がある話を聞かせてくれた。先輩が言うには初金縛りにあったという。すごい。純粋にスゴイ。

こう言ってはなんだが、僕は金縛りにかかりやすい体質だ。5歳の頃には初体験は終えている。そんな僕から言わせれば、45歳を超えた先輩が初めて金縛りにあったなんて信じられない。冗談の可能性は拭えないが、話が面白そうだったので聞かせていただくことにした。

「休みの最終日に子供たちが早めに寝るからっていうからさ~、俺も早めにねるじゃん。」

「はい。」

「そしたらさ~、うちの猫がドアのところに立ってるんだよね~。ほらっ、ミーちゃんおいで~って手を伸ばそうとしたんだけど、動かないわけ!!マジで、動かないの!!ホントだよ~!!マジでマジで!!」

「あっ、はい。」

体も動かないし、なんか誰かいる気配もするし、目だけは辛うじて動くんだけどさ~、開けられないじゃん、怖いし~。

「それは怖いですね~。」

でも、閉じてても怖いじゃん。だから、思い切って目を開けたんだよね~怖かったけど、そしたら、うちの嫁さんだったわけ!!もう~びっくりしてさ~、怖いし~、心臓止まるかと思ったし~。

「はぁ、面白い話をありがとうございます。」

率直で本当に申し訳ないが、鼻くそみたいな話がようやく終わったと心から安堵した。

先輩は満足したのか満面の笑みでこっちを見ている。ドラクエなら絶対に仲間にしたくない笑みだ。すまん。

資料整理を再開した僕に突然、フラッシュバックが起きた。あれも鼻くそみたいな話だった。そうだ。あの時も……

僕には3歳年の離れた姉がいる。僕は当時から姉のことを”こいつは普通の人間ではない、狂気に満ちている。”と感じていた。ある時は姑息な手段で僕の物をぶんどり、ある時は英語の分からない僕に「Pardon?」を連呼して風のように去っていく。まさに悪代官のような姉だ。

ちなみにそのことを姉に言うと、”CR悪代官 赤鬼X”の大当たり画像を見せて「そちも悪よのぉ~」とか言ってくる。豊丸産業には悪いが僕は”CR悪代官 赤鬼X”が嫌いだ。豊丸産業は一切悪くないが廃棄してほしいくらいに思っている。

そんな悪代官との楽しい生活を送っていた、ある蒸し暑い夏の日のことである。その日は20時から奇跡体験アンビリバボーで心霊特集を放送していた。高橋家は無類のホラー好きなのでこの手の番組は欠かさず家族で見ている。しかし、当時小学生だった僕にとっては身体的苦痛を伴う、下手したら生死に関わるほどの番組だった。

皆さんも経験があると思うが、ホラー系の作品の多くは多数で見ればそんなに怖くないことが多い。中には普段の何気ない生活に、突如として白っぽい子供のような呪怨が表れるみたいなジワジワ系の作品もあるが、これも隣に橋田壽賀子っぽい人がいれば解決する。

しかし、問題はこの後である。必ず一人になる瞬間があるのだ。この時はやけに人の存在を感じるし、ちょっとした物音にも反応してしまう。後ろから橋田壽賀子が「大丈夫よ~私がついてるから」と言って寄り添ってくれるみたいなことは絶対にない。完全に一人だ。

当時の僕はこの一人になる瞬間を”孤独死”と呼んで非常に恐れていた。

そんな僕にアンビリバボーは容赦なかった。生々しい心霊写真を映し出し、再現VTRで詳しく解説してくる。怖いので視線を逸らすと「ア、ア、ア……」とかいう声で体の芯まで恐怖を植え付けてくる。そんな特集だった。


時刻が21時をまわりやっとアンビリバボーから解放された。安堵と共に肛門が緩む。まずい、やつがやってくる。

僕は恐怖と闘いながら内ももをスリスリしてリビングをウロウロしていた。すると姉がおもむろに近づいてきて「トイレか??トイレに行きたいのか??」と煽ってきた。この顔は何か企んでいる顔だと思ってまず、間違いない。

「トイレ一緒に行ってあげるから、お姉ちゃんの怖い話聞いてよ!!」

この時初めて「クソ女」という言葉を神から授かった気がする。

ついてきてくれるのはありがたいがあんな番組を観た後に、さらに怖い思いをしなければトイレに行けないなんて、こんな理不尽があっていいのか。それにトイレごときでこの女に恩を売るのも嫌だ。

しかし、肛門ももはや待ったなしの状態だ。仕方ねぇ。

僕は姉の条件を渋々のんだ。

トイレに入った僕に扉越しから「いい??怖い話しまーす。」と陽気な声で話しかけてくる姉。僕は全集中、肛門の型をしてなんとか聞かないように抵抗していたが、姉はお構いなしといった感じでぼそぼそと怖い話を語り始めた。



昔々、あるタクシードライバーの男が名も無い駅で一人、客さんが来るのを待っていた。

しかし、待てど暮らせど客が来ない。それどころか人の気配すら感じられない。

その日は薄暗くて怪しい雰囲気が漂い、小雨がアスファルトをじっとりと濡らしていた。

「これじゃー客は来ねぇーな。」

そう言って男が帰路につこうとアクセルペダルに足をかけた時である。コツンコツンと窓を叩く音がする。

ちょっとした恐怖と予感が男を包んだ。これは明らかに嫌な予感だ。

男がゆっくりと音のした後部座席の窓に視線を向ける。

そこにはメガネをかけたお婆さんが立っている。その深いシワ谷のような皺に思わず息を呑んだが、お婆さんはガラス越しに「腰を悪くして家に帰れないんです。」と優しい声で話しかけてきた。

男は思わず後部座席のドアを開けた。

この時、恐怖心はあったものの、困っている人間に手を貸さねばという純粋な親切心の方が勝ったのだ。

お婆さんは、「Thank you‼」とネイティブ並の発音で男にお礼言ったが、男には「セック!!」という特殊なくしゃみに聞こえたのでそのままお礼を流した。

ゆっくり扉が閉まり、バタンという大きな音が車内に響いた。

男は「お婆さん、どこまで行きたいの??」と優しく聞くと、お婆さんは「インドまで!!」とかいう小粋なギャグを言い放った。

男はあまりにもクソ面白くないギャグだったことに違和感を覚え、これは徳島県三好市の大歩危(おおぼけ)に行けというメッセージだと瞬時に理解した。

男は「分かりました!!少し遠いのでゆっくりくつろいで下さい。」と言うとゆっくり車を走らせた。

お婆さんはギャグのつもりで言ったことに「分かりました!!」と返してきた男の思考が理解できなかった。それと同時に自宅とは反対方向に走り出した車に唖然として何も言えずに固まっていた。

男には固まっているお婆さんが安心してくつろいでいるように見えたので、バックミラー越しに満面の笑みを浮かべて答えた。

そんな満面の笑みをバックミラー越しに見たお婆ちゃんは、あまりにも腹立たしかったので小さく舌打ちした。しかし、その舌打ちは入れ歯のババアにはあまりにも不向きな行為。おもいっきり小さくしかならなかった。

男は突然鳴ったその音に思わずビクンとなった。

(なんだ今のラップ音は?もしや、幽霊の仕業か?)

そう思った男は急に寒気を感じ、身震いした。

そんな様子を見ていたババアは拳を強く握りしめ、小さなガッツポーズをした。こんな齢80を超えた自分にビビるとはとんだ腰抜けやろうだくらい思っていた。思わず笑みがこぼれる。

これマジ面白い。


この時、雨はすっかりと晴れていたが、依然としてあたりにはじっとりと湿った空気と漆黒の闇が広がっていた。

明らかにババアは楽しんでいた。今度は死人のような自分の手を、男の首筋に絶妙なタイミングで当てた。無論、絶妙なタイミングなので男には見えない。

男から米良美一ばりの高い声を出た。突然のことに男は動揺してたが、何食わぬ顔で前方を見る。

おそらく、とてつもなく恥ずかしかったのだろう。たしかにこういった場面での高い声は非常に恥ずかしい。特に男性にとっては自分の中の米良美一が飛び出すこと自体が稀だ。しかも、見ず知らずのお婆さんの前で自分の米良美一を聞かれてしまった。ダブルパンチ、これは非常に恥ずかしい。何食わぬ顔をするしか方法がなかったのだ。

そんな男の心を見透かすようにババアの顔が緩む。とんでもねぇババアだ。

そんなババアと男の奇妙なやりとりの最中、突然車内に卵が腐った匂いが漂ってきた。

「このババアやりあがった。」

男はとっさにそう思ってバックミラー越しにババアを見た。そこに映ったババアは平然としている。現行犯逮捕!、そう確信した。

しかし、ババアもババアで男がやったのだと確信していた。自分が行った男への悪事の仕返しにぶっぱなしたと思ったのだ。ババアはあまりの腹立たしさに範馬勇次郎みたいな顔をしてしまったのだ。

とっさに窓を開けようとした男の腕が突然、止まった。お客様に向かって失礼な態度はとれないと感じたのだ。

「いやー、今日は暑いですねぇー。少し窓開けますね。へへッ!」

そういうと60cmほど窓を開けた。これは、ほぼ全開に近い。しかも、どうやらこの匂いは外からするようだ。男はちょっと安心したが、匂いは以前にも増して臭くなった。まるで肛門を押し付けられているような臭さだ。

それに加えて、男の言動はあまりにも浅はかだった。

車内には18℃とかいう冷気で満たされていたからである。もちろん男は一切、汗をかいていないし、ババアには寒いくらいだ。やってしまった。

失礼な態度はとれないと感じてとった行動が逆に「屁こいたんだろ、くせーから開けるぜ!」と言わんばかりの行動になってしまった。男はババアが「イヤミか貴様ッ!!」と言って範馬勇次郎みたいにキレる前に適当なところで降ろそうと決めた。


「お婆さん、着きましたよ。」

男はそう適当ことを言うとババアに「降りて下さい。もちろん、お代はいりませんので。」と告げた。

ババアはキレそうになったが、男で十分遊んで満足したので降りることを了承した。

「わざわざありがとうございます。」

そう言って降りようとした時、メガネを外に落としてしまった。ババアはおもむろにしゃがみこんだ。

そう言われた男は安堵して一瞬、ババアから視線を逸らして近くにあったコーヒーを一口、ゴクリと飲み込んだ。

そして扉を閉めようと再び、後部座先を見るとババアがいない。そんな馬鹿なことがあるかと思い、外に出て周囲を見渡してもババアはいない。

「まさか……。」

いやな冷や汗が男の額に濡らす。異常な冷気が足に流れてきたがこれは車内の冷房だ。

足を震わせながら男はババアのいた後部座席へ足を運ぶ。自分の懐疑的な心から恐怖がブクブクと音を立てて沸き立つのを感じた。唇は渇き、足元はじめっとしている。ただならぬ雰囲気に男は思わず唾を飲んだ。

そして恐る恐る、後部座席を覗き込むと……そこには……


深い側溝にはまって動けなくなっているババアがいたのです。


とんだ鼻くそ話を思い出したもんだと思いながら引き出しを整理する。矢島先輩はそんな僕を見て、また鼻くそみたいな話をし始めるだった。


ちなみにこれは後から聞いた話なのだが、アンビリバボーがある日を境にぷっつりと心霊系の放送をしなくなったという。それの理由は諸説あるらしいが、都市伝説的な話らしいのだ。しかも、「検索してはいけない言葉」としての認知度も高いらしい。不可思議でなんとも後味の悪い結果になってしまった。すまん。

この真相を知りたい人は「アンビリバボー 心霊 見られなくなったわけ」とかで検索してほしい。


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