プログラム著作物とはなんぞや

「プログラム」と「ソフトウェア」

「プログラム」とは「コンピュータに対する命令(処理)を記述したもの」である(情報処理の促進に関する法律第2条。なお工業所有権法逐条解説では同条文は特許法におけるプログラムも同じ意義を持つとされている)。

例えば「1+1をコンピュータのリソース(メモリ、CPU、モニターなど)を利用して計算させ、結果を出力させるもの」が「プログラム」であり、コンピュータとの関係で用いられてきた言葉と言える。

「ソフトウェア」とは「ハードウェア」の対義語であるが、「プログラム」との関係では「プログラムを組み合わせてある機能を提供するもの」と「組み合わせ」と「機能」に着目した言葉と言える。

ただし昨今においては厳密に使い分けることは少なく、IT実務上も法的実務上も使い分けにそれほど意味があるとは言えない。

著作権法・特許権法上の定義

著作権法・特許法のプログラム・ソフトウェアの定義は下表の通りであるが、特許法ではソフトウェアはプログラムと同義として扱われているといえる。

またいずれも「コンピュータに対する指令の組み合わせ」であり、上記の意味ではソフトウェアに該当するが、やはりプログラムとソフトウェアを厳密に区別することにさほど意味はないものと思われる。

なお「システム」は情報処理の促進に関する法律では「情報処理システム」の定義であるが「電子計算機及びプログラムの集合体であつて、情報処理の業務を一体的に行うよう構成されたもの」と定義されている。

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プログラム著作物の位置づけ

プログラム著作物は学術の著作物 であるとされているが、文学などの典型的・原始的な著作物と異なる性質がある。

そもそも著作権法が保護する著作物は「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。(2条1項1号)」とされている。

しかしプログラムは簡単なものであれば誰が記述しても同じような記述になりがちであり、著作物として認められるための要件である「創作性」を満たさないことがある。この点で「機能的著作物」といわれることがあり、著作物性が認められにくい傾向にある。

プログラム著作物の著作権を争うには

ここで注意が必要なのは、著作権法はプログラムの「機能」には権利を付与せず、あくまでもソースコードなどの「記述」をその対象としていることに留意する必要がある。(この点は後述の接触角計算プログラム事件でも述べられている)

ある2つのプログラムの機能(例えば入力・処理・出力)が類似していたとしても、それをもってただちに著作権侵害とはならない。

ある機能(特に入力・処理・出力)が類似するプログラムが、仮に著作物であると認められるとしても、ソースコードを比較して明らかに類似性・依拠性が認められない限り、著作権侵害とはならない。

さらに権利の制限規定がかかる場合もあり、これも考慮に入れる必要がある。

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プログラムの著作物性とは

プログラムに創作性が認められる基準として、判例ではプログラムの全体に指令の表現の組み合わせ、用言順序に選択の幅があり、かつそれがありふれた表現ではなく、プログラマーの個性が表れている必要があるとする 。

裁判例における具体の検討過程

知財高判平成29年3月14日〔通販管理システムプログラム事件〕
(著作物性を主張された各箇所の記述について、以下のような結論で著作物性を否定)
HTMLに関する事典ないし辞典に記載された記述のルールに従ったものであり,作成者の個性の余地があるとは考え難い。
よって,控訴人主張に係る上記の記述において作成者の個性が表れているということはできない。

HTMLに関する教本及び辞典に記載された記述のルールに従った,作成者の個性の表れる余地があるとは考え難いものや,語義からその内容が明らかなありふれたものから成り,したがって,作成者の個性が表れているということはできない。

「<!--」と「-->」…はコメントであり,それ自体は,指令ではない。

「member」,「frm_member」,「this.value」,「memberName」なる名称は,それぞれの変数等に割り当てられた情報の意味を名称化したものにすぎず,これらの名称においても,作成者の個性が表れているということはできない。

控訴人(侵害主張者)は,本件HTMLは,控訴人が開発した著作物である本件phpプログラムと連動することからも著作物に該当する旨主張するが,HTMLをphpプログラムやJavaScriptと連動させること自体はありふれたものであり,また,本件phpプログラムの著作物性に関しては具体的な主張も立証もない。よって,本件HTMLに著作物性があるということはできない。

控訴人は,本件HTML以外,本件プログラムのどの部分に作成者の個性が表れているかを具体的に主張・立証しておらず,本件phpプログラムも含め本件プログラムの本件HTML以外の部分に著作物性を認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。
知財高判平成28年4月27日〔接触角計算プログラム事件〕(著作物性を肯定)
a プログラム構造
に見られる処理を行うためのソースコードの記載方法としては,例えば,①…②…③…など,他の複数の記載方法を採用することが可能である。
また,…必要な機能のうちどの機能をサブルーチン化して個別のプログラムとして構成するか,各プログラム中でどのようにブロックを構成するかについても,原告接触角計算(液滴法)プログラムの方法以外にも,他の複数の記載方法を採用することが可能である。

c ソースコードの記述
…VBでプログラミングを行う際,変数,引数,関数及び定数などの名称は作成者が自由に決めることができ,名称の如何によりコンパイル後のオブジェクトコードに差異は生じないから,異なる名称を付した場合であっても,電子計算機に対して同様の指令を行うことができる。また,パラメータ(引数)や変数定義の順序も,作成者において自由に決めることができる。さらに,同様の処理をサブルーチン化するかどうかを選択することができるほか,変数を配列化したり,変数の参照をパラメータ(引数)や関数としたりすることが可能であるし,繰り返し処理を行う場合のループ文の種類はFor
~ Next」,「Do ~ Loop」等複数あり,条件判断を行う場合にも「If」文や「Select Case」文により行うことができ,どのような関数を用いるかを選択することができるなど,同一内容の指令についてのソースコードの記載の仕方や順序には,一定の制約の下ではあるが,ある程度の多様性がある。

そして,被告旧接触角計算(液滴法)プログラムと同一性を有する原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分に係るソースコードの記載は,これを全体として見たとき,前記ア(エ)のとおり,指令の表現,指令の組合せ,指令の順序などの点において他の表現を選択することができる余地が十分にあり,かつ,それがありふれた表現であるということはできないから,作成者の個性が表れており,創作的な表現であるということができる。

ちなみに著作権法にプログラムの著作物が規定されたのは昭和60年改正(翌年施行)であるので明文の規定ができる前であるが、ゲームに関して以下のような裁判例がある。

東京地判昭和60年3月8日〔ディグダグ〕事件(著作物性を肯定)
「ディグダグ」の極めて高度な影像、音楽、効果音及びストーリーを表現するために必要な種々の問題を細分化して分析し、そのそれぞれについて解法を発見したうえで、その発見された解法に従って作成されたフローチャートに基づき、専門的知識を有する第三者に伝達可能な記号語(アッセンブリ言語)によって、種々の命令及びその他の情報の組合せとして表現されたものであって、当然のことながら右の解法の発見及び命令の組合せの方法においてプログラム作成者の論理的思考が必要とされ、また最終的に完成されたプログラムは、その作成者によって個性的な相違が生じるものであることは明らかであるから。右各プログラムは、その作成者の独自の学術的思想の創作的表現であり、著作権法上保護される著作物にあたると判示した。

またソースコード自体でなく、インターフェース、つまりユーザーが見える部分の構成の著作物性について争われた事件(ただし仮処分)として以下がある。

東京地決平成13年6月13日〔サイボウズ仮処分申立事件〕(著作物性を肯定)
(グループウェアのユーザーインターフェースの著作物性について)ユーザーに表示される画面の順序や画面配列に基づいて、かつ別画面へ枝分かれするリンク機能等の表示を持つ画面が表示されるのは、表現者が意図した選択・配列に基づく相互に牽連性を持った表現行為として表現者の個性が表れている限り、そこに創作性を認めることも可能というべきである。

基本的にアプリケーションのトップ階層から二階層程度までに全ての情報(画面表示)をおさめるとともに、一機能に必ず一画面を与えるとか、誰が行ってもほとんど同じとならざるを得ないとはいえない程度の個性的な選択・配列方法の下、例えば情報の有用性に応じて視覚的な区別をするとか、あるいはアドレス一覧の新規アドレスの入力表示画面において、氏名の表示の次に、住所等ではなく、Emailアドレスを持ってくるとか、独創的とまではいえないにせよ、誰が行っても同じになるとは言えない程度の個性をもって、具体的な画面表示がなされている。
と示したうえで、著作物性を肯定した。

上記の4事件を考えるに、やはり個々の処理の記述に細分化していくと、それ自体はありふれた記述になるということであり、著作物性を主張するためには、ある程度の規模のコードである必要があるように思われる。また選択したプログラム言語にも左右される可能性がある。

アルゴリズム

アルゴリズムは「解法」に当たり、明文で著作物性が否定されている(著作権法10条3項)。

権利侵害

もっぱら複製と翻案である。

これについて接触角計算プログラム事件では最高裁平成13年6月28日の複製・翻案の規範を示しつつ、概略以下のように示している。

複製とは、既存の著作物に依拠し、その創作的な表現部分の同一性を維持し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為
翻案とは既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為

プログラム著作物の事件においては、あまり明確に複製か翻案かの二分論で争うというよりは、両者の共通することとして 、依拠性と類似性があるかを争うように思う。ない場合は著作権侵害とはならない 。

知財高判平成28年4月27日〔接触角計算プログラム事件〕では原告プログラムと被告プログラムのソースコードを比較し
プログラム構造の大部分が同一であること
②ほぼ同様の機能を有する者として1対1に対応する各プログラム内のブロック構造において、機能的にも順番的にもほぼ1対1の対応関係がみられること
③これらの構造に基づくソースコードが、被告プログラムの約86%において一致又は酷似しているということができ、
また全体としてみたとき指令の表現等において他の表現を選択することができる余地が十分にあり、かつそれがありふれた表現であるということはできないから、
作成者の個性が表れており、創作的な表現であるということができるとしたうえで、翻案権侵害を肯定した。

なおこの事案は、もともとプログラムの開発等に携わっていた従業員が、退社後に入社した会社で同様のプログラムを作成し、販売したという背景がある。

上記のインターフェースの著作権侵害が争われた事件の地裁判決は、著作物性を生じる規範については同じことを示しつつ、著作物性を仮定したとしても、一方でビジネスソフトウェアの表示画面の制約の多さから、複製・翻案の該当性を(個人的な感想として)狭く解釈することを示した。

東京地決平成14年9月5日〔サイボウズ事件〕
原告ソフト(サイボウズ)の表示画面については、仮にこれを著作物と解することができるとしても,その創作的表現を直接感得することができるような他者の表示画面は,原告ソフトの表示画面の創作的要素のほとんどすべてを共通に有し、新たな要素も付加されていないようなものに限られる。すなわち、仮に原告ソフトの表示画面を著作物と解することができるとしても、その複製ないし翻案として著作権侵害を認め得る他者の表示画面は、いわゆるデッドコピーないしそれに準ずるようなものに限られるというべきである。

ソフトウェア「開発」で著作権侵害を争うのはほぼナンセンスか

以上から見るに、開発者vs開発者で著作権侵害を認めるには、ソースコードを解析してほぼパクったとか、元従業員が持ち出したとか、「裁判官が『これはダメだ』と思えるような」背景が必要な気がしてならない。

そして実際、ソフトウェア企業間で似たようなソフトウェアを作ったとて、およそ著作権侵害となるような事情はないだろう。

ところで受託開発ベンダーが、ある企業向けに開発したシステムと、同様のニーズを持っていた別の企業に、ほぼ同じようなシステムを開発することは著作権侵害となりうるであろうか。その場合、被告としてベンダーか二番手の企業、どちらとなるべきであろうか。そもそもその攻撃方法として、ソースコードの入手と立証が難しい著作権侵害を選択するであろうか。

ソフトウェアの著作権者であるメリットは?

では著作権者であるメリットが全くないということはない。

例えば違法コピー、違法アップロードはまさにデッドコピーが問題となることであり、かつ起こりうる頻度は段違いで高いうえ、侵害を問いやすい。

プログラム著作物の侵害主張による攻撃方法の適所は、現状ではこのような位置づけになるのではないか。

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