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法務と経理の対立しがちな関係と歩み寄り方

※ヘッダー画像はStable Diffusion Onlineで生成しました。

本記事は会計系Advent Calender 2023の記事です。
blanknoteさん立ち上げありがとうございます!

自己紹介(なぜ法務が会計ネタ?)

コウモリIT法務と名乗っているとおり、普段は法務職をしています。
ああ!石を投げないで!

ときどき法律と会計にまたがるnoteを書いています。

私自身は経理担当の経験はないのですが、なにかと経理畑との接点が多いです、というか普通に会社員やってると経理と接点たくさんありません?(そうでもない?)
あとは大学時代は簿記会計や財務分析が好きだったとか、
国税専門官になろうとして国税庁の税大購本を読んでいたとか、
同期に経理がいて色々相談してたとか、
会社が経理が異様に強くて会計を勉強しないと出世が望めなかったとか、
コンプラ担当で東芝の不正会計をはじめとした企業不祥事(特に不正会計)を調べていたとか、
公認会計士の勉強をしていたとか、
といったバックボーンはあります。

そんな私が語れるのは経理を「外」から見た立場ですが、法務と経理との関係について書いてみたいと思います。

なお私は複数の会社を渡り歩いているのでここで登場する経理は異なる会社の方々であることをお断りしておきます。

また当然ながら言えないこともあるとともに、個人の見解であり所属する企業とは以下略。

起こりがちな対立

これまで直面してきた経理との折衝(対立)を挙げてみますと、

印紙税の判断

印紙税は税分野だから経理の所管だろby法務
VS
契約書に関することだから法務だろby経理

これ微妙ですね。
契約書に貼付する印紙って契約内容わからないと厳密には判断できないので(どこまで厳密にやる必要があるかという観点もあります)法務がやった方が正確だと思いますけど、印紙が必要な文書って契約書だけじゃないですからね。
他の税法に比べればラクなので、印紙税法と通達が読めればどこがという争いは不毛です。
社内よりキャンペーン的に突然貼付漏れを指摘してくる税務署がムカつくところです。

※なにが対立を生んだのかというと「いや当然法務っしょ?」「むしろなんで経理なん?」みたいなこと言われたからです。

ちなみに税理士法によると、「税理士は、他人の求めに応じ、租税(印紙税、…その他の政令で定めるものを除く。…)に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする。」(2条1項)とされ、印紙税法って税理士業務の対象税目じゃないんですよね。だから経理の仕事じゃないとは・・・ならんやろ。
ちなみにちなみに司法試験には「租税法」という選択科目があるのですが、出題範囲は所得税法、法人税法、国税通則法、らしいです。

収益認識の判断

これは言わずもがな、2018年に公表された「収益認識に関する会計基準」の影響ですね。

当時、法律雑誌の「ビジネス法務」で取り上げられていて「なんで法務に会計が?」とか5ステップの時点で「なんでこんなめんどうなことしてるの???」とか思いました。
2020年4月に改正債権法が施行されるのもあって契約書の雛形の改定や会社への影響など検討してるのに、2021年から適用というのもうんざりしてました。
当時所属していた会社の業界団体が質問を受け付けていたので債権法改正を踏まえた質問書を送ったりしました(ひょっとしたら今でも会員用ページに私の質問に対する回答が載ってるかも)。

収益認識基準は契約の内容によって処理を決定するので、何かと「この契約だとどうなるの?」と聞かれました。
ほかには経理が契約書を読み解けないからどう判断すればいいか分からない的に投げてきたり、営業がしたい処理(総額取引や早期の収益認識など)にならない取引を「契約書でうまくやって」的に投げてきたり、というようなことがありました。

その他

その他にも、主に期末処理の問題で法務チェックを完了させて決裁を回した契約書が経理で「修正」と戻ってきたことも多々ありました。
(これは現場が経理と調整しておけば回避できることですね)

あと、上記のような経験を重ねると、法務チェックの段階で(あとで経理に何か言われるの面倒だから)「この点は経理と調整しておいてください」と現場部門に伝えるようになっていくのですが、現場部門が間接部門との調整に慣れていないとなぜか経理調整に法務が呼び出されたり、あげく経理と法務間で直接調整になります。
まあ間接部門同士の協調といえば聞こえがいいですが、実際の空気はそれほど協調的とはいえなくて、経理が現場部門に伝えるべきことを法務に伝えて「では現場とそのように調整しておいてください」のような締めをされたり。
あげく「なんで法務でこれ止めなかったんですか?」的な非難が飛んできたり(経理の方で注意喚起するのが筋でしょうに、と思ったり)。
あと「会計システム的にこういう処理はできない(本当はできるけど手間が増える)ので、こういう処理になるように契約書変えてください」とか。

個人の経験です

ここでいったんお断りしておきますが、ここまでのことはあくまでも個人のフィルターを通した経験です
冒頭でいくつかの会社を渡り歩いているといいましたが、そういう(ように感じた)会社もあった、ということでひとつお願いします。

対立の背景

さて、上記のような事態が起こった背景を考えてみます。

原因1 経理が消極的

めんどくさい部門は相手にしたくないというのはぶっちゃけどこであろうとあるでしょう。
(でもそこで別部門を藁人形にしないでよとは思います。)

消極的になる背景として、あまり積極的に頑張っても評価されない人事制度というのもあったと思います。
基本年功序列、減点主義なので、波風たてなければ順調に出世できるという。
間接部門はプラスの成果は出しにくいので、いかにマイナスを減らすかになってしまいますよね。

原因2 法務が首突っ込みすぎ

私が特にそうですが(反省)、専門部署があるのによその専門分野のことをつらつらと述べる必要はありません。
必要な処理と回答はその部署がやればいいのです。

原因3 連携の仕方のすり合わせ不足

これはどの部門でもあると思いますが、良かれと思って連携すると「ウザい」と感じるときもあります。
「あんまわかってないくせに適当なこと吹き込んで」とか「触れたくなかったのに」といったことですね。
では何も述べずに「経理/法務に聞いてください」と回すのも、受ける側は結構イラッとします。「前捌きぐらいしろと」と。
ワガママですね、回してほしいのか、回してほしくないのか、どう前処理してほしいのか、コミュニケーションが必要です。

※私の所属していた当時の企業がなぜこれができなかったかというと、法務は新しい組織であるので経理に比べて人数が圧倒的に少なく、社内のヒエラルキーも低かったです。原因1も相まって、まともに対話すると法務に押し付けられるという背景がありました。

原因4 業務フロー的な問題

契約ごとを取り上げると、法務は契約が締結されてからはノータッチということが多いです。そのため、実際の納品物や納品書、請求書といったものを見届けていません。

そして、経理は契約書作成の時点では関わらないことが多いと思います。だいたいは案件情報を掴むのは決裁書の回覧や、請求書、検収書、伝票が回ってきたときでしょうか。
そのため、いざ経理処理するときになって「これまずくない?」ということが発見されたりすることがあります(請求書と契約書で品目合ってないとか金額や契約期間が違うとか)。

逆に、法務は最終段階まで知らされないときもあります。
特に投資や損失などの情報は、上場会社であれば適時開示事項にもなりますので極秘扱いで、経理の一部の人は知っていても法務は知らないということはあります(初耳の取引先の破産手続き開始決定通知書が法務に持ち込まれたが、すでに引当金計上されてるとか)。
こういうイレギュラーの対応は慣れるものではないので、気が効くかという面もあると思います。M&Aとかであれば担当者間であればやりとりしてますけど。

原因5 会計的な判断が影響される契約書の定め方の文献が殆どない

収益認識基準のときが特にですが、契約書にもとづく経理処理というのをあまり重視してきていなかったためか、会計と法律の関係についての文献は少ないです。

収益認識基準対応の際は探す限り「改正民法と新収益認識基準に基づく契約書作成・見直しの実務」ぐらいしかありませんでした。
※なおこの書籍中の契約文言は個人的にはスタンダード的ではなく、そのままは用いていません。

ネット上だと片山法律会計事務所のブログなどでしょうか。

そのため、具体的にどのような文言だとどういう判断になるのか、何が正解、納得解であるのかが手探りでした。

原因6 法務はリスク・責任を最小化したいが、経理は曖昧さ・責任を求める場合がある

契約書はリスクコントロールのために作成するので、現場や法務的にはリスクを最小化するためにはなるべく責任範囲を狭くしたり、限定的にするような定めをします。

一方で、収益認識基準の本人・代理人会計でこれがひっかかって純額計上になりかねないときがあります。
そこをごまかすために、「そこまで書かないでくれ」というようなことを言われることがあります。
で、現場からは「リスクを最小化しつつ総額計上になるような文言にしてくれ」と言われるという・・・。

原因7 契約書になんでもかんでも求めすぎ

6と真逆ですが。

例えば収益認識基準38では、一定の期間にわたり充足される履行義務の要件の1つとして「企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること」が挙げられていましす。

問題は「対価を収受する強制力のある権利を有している」といえるかですが、民法においては委任契約において履行割合に応じた報酬の定めがあります(民648条3項)。請負においても、注文者が受ける利益の割合に応じた報酬の定めがあります(民634条)。

これからすると、契約でこれを排除しない限り民法が適用されるので、この要件は満たせることになります(厳密には「履行割合や注文者が受ける利益」とは目の前の取引では具体何かの検討が必要です)。
そのため、法務からするとこれをわざわざ規定する意義を感じません。
むしろ規定することによって交渉相手から無用なツッコミを受けることがあります(特にこの条文は債権法改正により、割合報酬権を認める帰責事由の所在を受任者・請負人から、委任者・注文者に変更したため、よく理解していない法務からツッコミをうけることが多々あります)。

しかし、経理からは「書いてください」と求められるわけです。

まあ書きますけど、適用指針13で
「履行を完了した部分について対価を収受する権利の有無及び当該権利の強制力の有無を判定するにあたっては、契約条件及び当該契約条件を補足する又は覆す可能性のある法令や判例等を考慮する。当該考慮にあたっては、例えば、次の(1)から(3)を評価することが含まれる
(1) 当該権利について、契約上明記されていない場合であっても、法令や判例等により 確認されるかどうか。」ってあるやんといつも思っています。
なので、オーダーだけ突きつけられると法令・判例等の検討をラクして契約書だけ見ればいいようにしたいがための要求のようにしか聞こえないんですよね。

原因8 契約書が取引の実態を正確に踏まえていない

これは私も同業の法務に対して憤りを覚えるところですが、法務が作成する契約書が取引の実態を正確に理解した条件設定になっていないことがあります。

さらに細かくこの原因を分解すると、以下の3つが考えられます。

  1. 契約書をドラフトする法務担当者の取引理解力、ドラフト力不足
    A)取引当事者が、お互い何を強み・弱みとしており、何のために、何を取引する(目的物とカネ、あるいは目的物同士を交換する)のか、取引の本質的な理解が及ばないケース(忙しくてそこまで立ち入ることができないことも含む)
    これには担当者の経験による影響も多いですが、最初から取引自体に興味がないという人も(まれに、たぶん)います。
    B)取引を掴めても、そこから法的な論点を抽出できないケース
    C)Bまでできても、文章力の問題があるケース

  2. 法務の守備範囲の限定
    どんな法務にも共通する最大のミッションは「自社の法的リスクを最小化すること」です。
    これは契約書でいうと、保証条項や損害賠償条項、あるいは紛争の解決方法の定めがターゲットになるため、場合によってはここしかしっかりみませんと守備範囲を限定することがあります(なお役割分担による効率化の観点からすれば、これを否定するつもりはありません)。
    こういう法務の言い分は、「取引の内容は事業部の責任範囲であり、その正確性は事業部のみが負う」です。
    たしかに、ビジネスの第一線である事業部と、それをチェック・支援する法務との間には明確な線引は必要です。しかし、上記のミッションからして、ビジネスの正確な理解が不要になるというのは導けません。

  3. 分業化による画一的な運用
    特にメーカーなど購買や調達の部署が確立されている会社で多いですが、いかに多くの受発注を画一的にオペレーションするかの観点から、1種類の契約条件を画一的に提示し、交渉は受け付けないという会社が少なからず存在します。
    こういった部署は基本的に法務部署があっても管轄外で、正確な法務判断ができないため、こういった運用になっています。
    メーカーなどでは調達の中心は部品などの売買になりますので、基本的に売買契約の条件になっています。
    しかし、システム開発の委託などにもそのまま出してくるケースがあったり、あげく保守やクラウドサービスのライセンスなどにも適用しようとしてくるケースがあります。

また、上記がクリアされていたとしても、一昔前の契約書というのは非常に簡素で、抽象的な文言に終止してるものが一般的でした。
契約書をそれほど重視せず、交渉に労力をかけずに取引をしたい、どうせ揉めても裁判にはせずなんとか話し合って解決する、という日本の風潮の影響もあったと思います。

このような取引を正確に踏まえていない契約書の存在については、ちょうど今回のアドベントカレンダーでblanknoteさんが書かれた「法的形式」よりも「経済的実質」が優先されてしまうことがある1つの原因ではないかと考えています。
すなわち、契約書を読んでも当事者の法的形式が読み取れないことが多い、ならば重視することはできないよね、という学習をしてしまうことがあったのではないかということです。

ただ、国際化が進む日本において外国との契約では曖昧な契約書はNGであること、契約書のサンプルが充実してきたこと、法務の需要と人材の供給が増えてきたこと、などから、この点については徐々に改善されてきていると思います。

さて、どうやって歩み寄るか

企業会計原則、会計基準、法律、契約書の全ては把握できない

原因は結局「コミュニケーション不足」なんだと思います。
で、なんでコミュニケーション不足になるかというと、「お互いの業務が専門的すぎるから」です。

お互い、ベテランになったらそれぞれの分野をある程度理解してはいますが、法令・裁判例・契約書などにしろ、企業会計原則・会計基準・実務指針・概念フレームワークなどにしろ、数千(万)ページにわたる膨大なものです。
その体系の理解、どの部分がどう関係してくるのかの選別ができるようになるには、原文にあたってしっかり理解する必要があり、それなりに労力と時間が必要です。

また、どちらも「書いてあること」と「実務で回っていること」のズレはあります。
そのへんの機微を理解するには、実務で揉まれる経験があります。
特に契約は取引相手との交渉の影響で理想な形にならないことは多々あります。
大手は自分たちが有利な雛形を出してきて譲らなかったり、よくわからないこだわりやしがらみ、スキームが出てくることがあります。

以上を踏まえ、どうやって歩み寄るかをまとめると、

何を重要視、確認しているかは伝えよう

対処すべき事項の識別と、どのように対応するのがもっとも合理的で効率的か、考えて業務フローと連携を組みましょう。

このとき、何を重視して確認したいと思っているのか、お互いに認識しておくのがよいです。

また定常的、通常の取引や処理から外れそうなマターへのアラートのあげ方は担当者のセンサー(勘)によりますが、センサーの磨き方は事例を学習するしかないと考えています。
つまり、どのような事実関係においてどのような問題があったか、どうすべきであったかのファクトを持ち寄って、定期的に共有しなければ、何がイレギュラーであるかのセンサーは磨かれません。

この辺は、社内へのコンプラ教育や経理・税務研修などでまとめる機会があるのであれば、双方とも見られるようにはしておくほうがよいでしょう。

法務も経理も、法律や会計基準を読み込むよりも、実際の起こった問題やトラブルを知る方が100倍タメになります。
(そういう書籍を読むのもよいです)

例えば、外注費に対する税務調査の指摘だったり、検収が期跨ぎしてしまって計上できなかったり、期末に納品されたけど開梱してなかったので費用計上が・・・などは、なるほどそういうのがあるのかと勉強になりました。

法務にも会計基準を見せる、基づいて話す

法務がいちいち法律の条文を提示しないように、経理も会計基準をいちいち提示しないで「会計上はこうなんでこう」という説明をすることがあると思います。

しかし、法務は理屈っぽいので「それはどこに根拠あるの?」と腹の中では思っていることもあります。
なぜなら法務というもの自体が、法令の条文や契約書の条文に照らして、事実を当てはめて判断するプロセスであるからです。

私の経験上も、経理の先輩や課長に会計監査六法を見せられて「これはこういう条件を満たせばこう処理すると書いてある」と説明された経験が今でも活きていると感じています。
※おかげで「法務が六法を持つように、経理は会計監査六法を持ってるものだ」という思い込みができました。

(注意)
法務だからといって、法律や基準をしっかり読み込めるとは限らない場合があるので、法務担当者の力量、キャパ、意欲などに注意ください。
法律を学んでいながら条文でさえ変な解釈をしてしまう人もいるので、変な勘違いを持つ人もいます。

繁忙期について

忙しいと人はトゲトゲしてくるので、繁忙期は避けるのはどの部署間調整でもやったほうがいいでしょう。

繁忙期について、経理は月次や四半期、期末は決算で忙しいのは有名と思います。

法務は担当業務によって繁忙期が違います。
株主総会とかを担当してると決算時期は多忙です。
取引系の法務をしてると押し込みの期末は忙しいですが、期初は暇なことが多いです。特にお盆とか、何もすることないことあります。
研修担当だと新卒の受け入れや昇格者の階層別研修で組まれたスケジュール次第ですが、時間の拘束が多いのでイレギュラー対応ができません。
トラブル対応担当だと予測不能です。訴訟担当だとピリピリして声もかけられないときがあります。
で、多くの会社では上記をだいたい少人数で、1人が複数担当しています。

発信の大切さ

今回アドベントカレンダーとして多くの経理畑の人に読まれるかもしれないとドキドキしながら書いています。
が、コミュニケーションが大事、と書いたように、発信してみるのはチャンスと思います。
そして受け取る側も、「こいつは何もわかっちゃいない」とみるのではなく、「そういう風に思う、思ってしまうのね」というぐらいの気持ちで受け止める空気が大事と思います。

というわけで、皆様いかがでしたでしょうか、ぜひ尖った石は投げず、生暖かい受け取り方をしていただければと思います。

アドベントカレンダーの次は闘魂告知ボット(手動)さんです!

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