ライセンス「再販・リセール」に関する一考


ソフトウェアライセンスを扱っていると「ライセンス再販・リセール」というものが登場する。

海外ベンダーと「リセールパートナー契約」などを締結したSIerやIT商社が、いわゆる代理店となり、ソフトウェアのライセンスをユーザーに提供する。

ここで、代理店はライセンスを「再販」と言ったりすることがある。

以下では再販・リセール業者を便宜的に「代理店」と呼ぶことにし、代理店が「再販」と呼ぶ取引の法的性質を検討する。

ライセンス提供は売買契約と捉えることは可能か?

多くの代理店では、ライセンスの再販を「売買契約」と認識していると思われる。

一方でライセンスは、「許諾」のような単独行為もあるが、ビジネス上は契約行為として「ライセンス契約」といわれる類型となる。

「ライセンス契約」事態が明確な定義がないので、売買契約との違いを厳密に比較することは難しいが、以下のように比較することができる。

対象物
売買契約:財産権(所有権、知的財産権を含む広範な権利)
ライセンス契約:知的財産(知的財産”権”とは限らない)に対する使用権

効力
売買契約:財産権の移転
ライセンス契約:ライセンス対象物に関する一定の行為の許諾

契約行為の効力の期間
売買契約:(担保責任などを除けば)実行により終わる(瞬間的)
ライセンス契約:一定期間にわたり継続する(期間的)

上記からすると、実務上の捉え方としては、「ライセンス対象に対する一定の権利を対価と引き換えに提供する」という行為としては売買契約と捉えても差し支えないようには思える。

売買契約と捉えた場合の民法・商法の適用は?

ライセンスの提供という「時点」についての捉え方よりも以降のライセンスの行使という「期間」に要点(例えばクラウドサービスの障害などの問題に対し代理店がなんらか責任を負うかという問題)があるし、民法商法が想定している取引ではないので曖昧な点が多く、なるべく契約で明確化することが重要であるが、いったんはライセンス提供行為を売買契約と捉えた場合の民法商法の適用について考えたい。

民法・商法とも総則などはあるが、民法は売買契約の節(555条〜585条)を、商法は商事売買(524条〜528条)を中心に確認すると、主には以下の点がポイントととして挙げられよう。

  • 「『ライセンスの対象となる目的物』に対する一定の権利(禁止行為など使用許諾条件などに従うことを条件とする、使用する権利、サービスの提供請求権)」を「財産権」と捉え、これを買主に移転し、これに代金を支払う売買契約(民555条)と捉えることは特に支障はない。

  • ライセンスの実体であるソフトウェア自体、ライセンスキー、クラウドサービスのアカウントが使えないなどの場合は「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」として契約不適合責任の問題となる(民562条〜566条)。
    売主は契約不適合責任として、引き渡したソフトウェア、アカウントなどが正しく使用できなければ、正しく使用できるよう追完する必要があり、あるいは代金減額、解除されうるし、損害が生じていれば賠償する必要がある。

  • ただし商人間売買である場合は商法526条により、買主は引き渡されたソフトウェア、アカウントなどが正しく使用できるか検査し、検査結果を通知する義務が生じ、契約不適合責任期間は6ヶ月に制限される。

  • 引き渡したソフトウェアが滅失したり、クラウドサービス事業者が破産した場合(この場合は厳密には民567条にいう「目的物の滅失」といえるかは疑問である)は危険負担(567条)の問題になりうるが、実際上は対価の支払い方(一括前払いか、月額先払い/後払いか)の取り決め方によるため、問題になることは、明確な取り決めが無く、永年や1年ライセンスなどのそれなりに多額のライセンス料を引き渡し後一括払いと取り決めた場合において、代金受領前に上記のような事象が生じたような限られた場面に留まると思われる。

  • 供託は事実上できないため適用し得ない(商524条)

上記のように考えると、民法・商法だけでも、実務上、買主・売主双方に際立って不利益が生じるようなことは起こらず、概ね当事者の感覚通りの対応と責任に落ち着くと思われる。

続いて代理店が絡む三者間における取引関係にフォーカスする。

「再販」の捉え方

いわゆる「再販」を厳密に法律行為として捉えたとき、以下の5つの捉え方があろう。

  1. 他人から取得した権利の売り渡し(純粋な再販売行為)(民555条)

  2. 他人物売買(民561条)

  3. 問屋(商551条)

  4. 第三者のためにする契約(民537条)

  5. サブライセンス

純粋な再販売行為(民555条)

「ライセンス再販」といった場合は、ほぼ1.と捉えているであろう。

このように捉えるメリットは、財務的には仕入先に支払う代金を仕入原価とし、顧客からの受取代金を売上高とすることができるため、売上高を大きくすることにある。

ただし、1.は、売買契約上の財産権(ライセンス)の引渡しを代理店が受けていることになるため、理論上は代理店の顧客が何らかの理由で引き渡しを拒んだ場合、代理店自らがライセンスを使用できるはずである。
しかし実務上、代理店は受注した顧客のライセンスを、自己で使用するのに転用するという必要性はないから、不良在庫のような状態になる。

【会計的な捉え方】
上記の意味では、代理店は在庫リスクを負っているとはいえそうであるため、収益認識会計基準適用指針44項における支配は獲得していると捉えられるかもしれない、実際上は便益は得られないが。
また、顧客から仕入先宛に使用場所やドメインなどの受注書類(申込書、ユーザーシートなど)を受領することがあるため、このようなケースは実質的には、「売先を指定された仕入れ」ということになろう。このようなケースでは収益認識会計基準では「手配する履行義務」と捉えられるかもしれない。ただし、いわゆる販売店契約(Distributor Agreement)、パートナー契約を締結した場合は、代理店が販売店契約に基づいて顧客へのライセンスの提供を契約により指図できる内容である場合や、自己使用のためのライセンスを購入することができる場合があるため、このような場合は「他の当事者に顧客にサービスを提供するよう指図する能力を有する」として支配していると捉えることができるかもしれない。

他人物売買(民561条)

2.の捉え方は、代理店が受注時にライセンスを保有しておらず(すぐに払い出せるアカウントやライセンスキーなど)、受注後に仕入先に注文することで、引き渡すことができるようなケースが該当しうる。

民法ではこのような、売主が売買契約成立時に未だ財産権を有していない場合は、「その権利を取得して買主に移転する義務を負う」と定める。

このようなケースが起こりうるのは、多くは代理店がアカウント発行権限を有していないことが通常であるクラウドサービスであろう。つまりクラウドサービスの代理店は多くの場合は実はこれに該当すると思われる。

ただしこのように捉えた場合でも、権利的には「仕入先→代理店→顧客」と移転していくと捉えるならば、1.と同じことになる。
したがって法的な意味では、ライセンスが買主に提供できなかった場合は債務不履行違反を負うという帰結は変わらないので、1.と2.に実質の違いはない。

問屋(商法551条)

問屋とは「自己の名をもって他人のために物品の販売又は買入れをすることを業とする者」をいう。
問屋は「売買の受託者」であり、委任及び代理に関する規定を準用される。(商552条2項)。
問屋は自らが法理行為(ここでは仕入先との契約)の当事者となるが、行為の経済上の効果すなわち損益のすべてが他人(ここでは顧客)に帰属することを意味する。自己の名をもって自己の計算において取引をすることは妨げられない。
すなわち、問屋は顧客に対しては委任契約関係にあり、仕入先に対しては売買契約関係にある。
※本人の名においてする締約代理商と異なる。また,第三者と法律行為をする点で,媒介という事実行為をするにとどまる媒介代理商や仲立人と異なる。(青竹正一 著『法律学講座 商法総則・商行為法(第3版)』(信山社、2023年)363頁)

金融商品取引業者にみられる形態であるが、経済上の損益が他人である顧客に帰属するため、問屋の収益は手数料となる。
問屋は金融商品取引業法などの特別法の規制が多く、商法上は規制は多くない。
なぜこれを取り上げたかといえば、ライセンスにおける仕入先・代理店・顧客の三者の関係には、いわゆる直接使用許諾型と再使用許諾型があり、直接使用許諾型の場合は利用規約等により仕入先と顧客は直接の契約関係を構成する(他方で代理店・顧客は注文書等による契約関係も有しており、顧客は二重の契約関係を有する)。
「再販」といいつつ、手数料の取り決めとライセンス対象に関する問題は直接解決するとしている場合や、直接使用許諾型の場合は、問屋と捉えられる余地があると考えられる。

問屋と捉えられる場合、仕入先に対する関係は売買契約となるため1.と変わらないが、顧客に対する関係については以下の差異が生じる。

  • 代理店はライセンスおよびライセンス対象のソフトウェア、ソフトウェアサービスに関する責任は負わず、その責任はもっぱらライセンスの手配に関することに限定される。

  • 上記のため、収益の本質は手数料である。

  • 委任に関する規定に従うため、第三者に再委任することは原則できない。
    ※代理店がいわゆる二次店の場合は、一次店への注文は売買と捉えれば、再委任ではないと捉えられるだろう。

契約不適合責任については、民法559条により準用されたとしても、結局は問屋として行ったライセンスの取得・提供行為にどのような契約不適合があったといえるかというか、債務不履行というかの違いであり、消滅時効の違いはあるかもしれないが、やり直しを追完責任として構成するか一般の債務不履行として構成するか、損害賠償を契約不適合責任として構成するか一般の債務不履行として構成するか、帰結に違いは生じないであろう。

ただし、実際上は、代理店は顧客から注文書なり申込書なりを受け取り、仕入先に注文するため、これを売買の受注と捉えるか問屋としての受任と捉えるかについては、契約書や商材に関する責任についてから判定するしかないが、その点を意識した契約ドラフトをされているケースは殆ど見られないため、その判定は難しい。

第三者のためにする契約(民537条)

クラウドサービスの代理店契約において稀に見られる。

第三者のためにする契約とは「契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する」とする契約であり、代理店が仕入先に対して「仕入先が代理店の顧客に直接サービスを提供することを約束した場合は、代理店の顧客は代理店を介さずに直接仕入先にサービスの提供請求ができる」ことになる。

上記のメリットは、代理店・仕入先、代理店・顧客の各契約は、売買であれ委任であれ、そのまま基礎とし、本来、代理店・顧客間の双務契約上の「代理店に対する目的物引渡請求権、サービス提供請求権」を、契約外である仕入先に直接請求することができるようになるため、直接使用許諾型における実態に沿っている。
他方で、上記請求権の反対債権である代金請求権は基礎となる契約のまま存在するため、仕入先は代理店に対して、代理店は顧客に対して代金請求する。
※代理店からすると、代金の回収リスクは負ったまま、ライセンスの行使権は顧客のものとなっているため、メリットはないといえばない。

サブライセンス

そもそも「サブライセンス」自体が明確な定義がないのであるが、便宜的には以下のように説明が可能であろう。

  • サブライセンスは「ライセンサーがサブライセンサーに広範な権限を付与し、他方でその責任を負わせる形態」に用いられる。

  • 権限としては、サブライセンシーへのライセンス提供価格の決定権は当然として、ライセンス対象物自体の名称、外観をサブライセンサーのものにすること(OEM)、その使用許諾条件をサブライセンサーが決定できること、が中心になる。

ライセンス再販では、ライセンサーが直接ライセンスする場合の条件(仕様、使用許諾条件など)を「そのまま」適用することが前提で、ライセンス対象物の仕様やライセンスの使用許諾条件を変更することは想定されていない。
ただし、プラン構成、解約の可否、金銭的な部分では代理店に一定の裁量が与えられることが多い。例えば以下がある。
・本来一括前払いのものを、後払いや分割も可能にする(代理店が回収リスクを負って)
・代理店が価格の決定権を持つ。

サブライセンスを上記のように捉えるならば、もやは再販や問屋の話ではなく、調達したものを自己の製品・事業に利用している内部的な利用であると捉えるべきであろう。

ライセンス対象物自体に対する代理店の責任

代理店の再販行為が「ライセンスという使用権の売買契約」と解したとき、使用権の対象になるソフトウェア等自体に起因する問題については、形式的には代理店は取引目的物になっていないから、なんらかの責任を負うとは解しづらい。

ただし、売り渡したものがあくまでもライセンスである場合で、ライセンス対象であるソフトウェアサービスの障害に起因して返金の問題が生じた場合は、直接仕入先が返金することはほぼなく、代理店が返金のうえ、同額を仕入れ先が補填すると処理するケースが多いであろう。

逆に損害賠償については、例えば純粋なクラウドサービスのライセンス再販としてしか代理店が関与していないケースの場合は、損害を与えた者は仕入先であるから、顧客と仕入先における賠償問題となろう。
代理店が介在するとすれば、賠償金の代理受領・支払いか、第三者弁済(本来弁済する義務のない者が弁済を行うこと)のいずれかになろう。

その他

仕入先・ライセンサーが消滅した場合

上記のいずれのケースであれ、仕入先・ライセンサーが消滅した場合は、もはやライセンスの提供は不可能になる。

この場合に、代理店がいかなる責任を負うかといえば、顧客との契約を度外視すれば、
・危険負担として処理する
・不可抗力として処理する
・債務不履行として処理する
いずれの構成もありうるが、少なくともサブライセンス型の場合は代理店のサービス提供が継続できなければ、債務不履行は免れないであろう。
ライセンスの売買である場合は、例えば1年ライセンスなどの期間ライセンスを取引している場合は、その未消化期間分は顧客は使用できないから債務不履行として返金する必要があるということはできるし(これは問屋においても同様)、それに対する抗弁として不可抗力や契約での免責条項を主張する可能性もある(不可抗力は難しいようには思うが)。

代理店が消滅した場合

売買、問屋、サブライセンスの場合は、仕入先はあくまでも代理店に対して提供する義務を負うものであるから、代理店が消滅した場合は、顧客に対して当然にライセンス、サービスを提供する義務を負うものではないと考えられる。

第三者のためにする契約の場合は、代理店・仕入先の契約が消滅するわけであるから、顧客の提供請求権も消滅しそうである。
現実的には顧客・仕入先間の直接契約関係になれないか、あるいは他の代理店経由での関係に移行するかの調整になろう。

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