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カエル、更年期を渡る【序章】

序章 カエル、出会う

 そのカエルはまっすぐにしか泳げません。不思議と方向転換ができないのです。
 ある時、いつものようにまっすぐまっすぐ泳いでいると、なんだか急にいつもと違う景色が広がりました。流れも違います。いつもは、同じ方向に流れる水の流れに乗ってスイスイ足を動かすだけでしたが、なぜだか水が飛沫を上げて襲いかかってきます。こんなこと初めてです。
 それに体もしぼんできました。喉はカラカラに乾いています。苦しくて苦しくて、手足をバタバタと動かしました。水を掴み、息を切らし、必死でもがきました。
 もがいてもがいてもがくと、口の中に水が入り込んできました。その水はとてもしょっぱくて、カエルの水分はますます奪われます。
 そして気がついたのです。ここが、海だと言うことに。
 川の先には海があると、教えられました。
「本当はいつまでも川にいたいけど、私達の種族はまっすぐにしか進めないから、いつかは必ず海に出会うのだ」
そう教えられました。
 住み慣れた川と違うから大変だよ、と教えてくれた母は、すでに海を行きました。
 その海には【更年期】という名前がついているそうです。簡単に渡れるものもいれば、苦労するものもいるそうです。
 そのカエルはどちらでしょうか?波を逆立て、手足をバタつかせているくらいですから、きっと苦労するのでしょう。ほとんど溺れているのです。頭の中はこんがらがっています。

どうしてこんな辛い目に合わなければいけないのか
どうしてまともに泳げないのか
泳げない自分がダメなんじゃないか
このまま消えた方が良いのではないか

 泳ぐなんて、とても簡単なはずなのです。それなのに、こんなにも出来ないのです。悔しくて苦しくて、恥ずかしくて、いっそのことカエルであることをやめてしまいたいとまで思いました。

 それでもやめることなんて出来ません。カエルはカエルでしかないのです。カエルでしかない体を携え、この海を進むしかないのです。だってそのカエルは前にしか泳げないのですから。引き返すことなんて出来ないのです。
 
 だからカエルは泳ぎ続けます。もはや泳いでいるというよりも溺れているのですが、それでも手足を動かし、呼吸を続けるしかないのです。

 これはそんなカエルが【更年期】という海を渡り切るまでのお話です。

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