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[詩]「熊蜂(くまんばち)」

日差しが降り注ぐ春の庭先
熊蜂の上手なホバリング
庭の一角にかの熊蜂は一方的に防空識別圏を設定している
何者たりともこの領域を侵すことを許さない

熊蜂の急旋回 不用意に領域を侵した羽虫への威嚇飛行
慌てる羽虫 危ない奴からは逃げるしかない
どこから現れたかもう一匹の熊蜂 やがて熊蜂同士の縄張り争い
唸る羽音の重奏

柿の木からイロハモミジのある辺りまでが彼の領域らしいが
その領域は今のところ平穏が保たれている
それにしても効率の悪そうな羽音だな
あのエネルギーを得るには相当の餌を必要とする
時折聞こえてくる遠くを走る自動車のエンジン音
あっ あっちの方が効率が悪いか
それに たぶん大した用事でもないのに無駄に車を走らせているのだろうから
効率どころの話しではない

暖かい日の光を受けて 熊蜂は静止と急旋回を繰り返している
南の侵入者を排除している間に 北には別の侵入者が現れる
かの熊蜂に安息の日は来ない

いつまで維持できるか分からない彼の領域
彼が身勝手に決めた彼固有の領域
その領域をグローバリズムを信奉する蝶や羽虫が横断していく
元々この世界に線など存在していないのだ
線は独り善がりの主張であり浅はかな概念である
だから やがて消失する

その日の午後
かの熊蜂は もう庭先に見えない
どこかで休息しているのか 別に適地を見つけたか
はたまた大きな鳥に食われてしまったのか
いずれにしても その後あの熊蜂はこの庭に現れることはなかった

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