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♯31 読み終えたら大ファンになっていた本

3月から5月は、めちゃくちゃ本を買い、読んだ。買うスピードが読むスピードを上回ったので、積読だらけ。20冊あまりの積読本が目に入るたび、時間管理の下手さを実感して、ほんとに不快(笑)。

それなのに、読みたい本がどんどん発売される。ほんとに困るなぁ…と思いつつ、何気なく手に取り、一気に読み終えた本があるので紹介したい。

そういえばこの著者さん、関西の夕方の情報番組に出ているな、くらいの認識だったのに、読み終えた今、私は完全に岸田奈美さんの大ファンだ。

語り口は軽妙で、底抜けに明るい。勢いがある文からは、著者のお人柄が伝わってくる。

が、著者の日常は”えらいこと”が占める割合が多い(ように感じた)。関西弁の”えらい”は、たいへんとか、しんどいという意味で使う。どのように”えらい”のかは、岸田さんの本やSNSでお確かめください。

この本は、岸田さんのご家族について書かれている。家族内で生じた出来事を通して、岸田さんの考えや価値観、見解などに触れられるのだが、この中に「耳障りがいいだけの、わかったような言葉」は登場しない。むしろ、著者の抱いているであろう生活に対する危機感や、日常的に感じておられるであろう焦りなどがリアルに伝わってくる(ように私は感じた)。

中でも印象に残っているのが、「おすそわけをもらう話」に登場する「24歳の弟は、字が書けない(はずだった、怪文書を読むまでは)」と、「弟がひとりで美容室に行ってて、姉は腰を抜かした」だ。

内容を端的に説明すると、岸田さんの弟さんは、ダウン症を持っている。それもあるのか、弟さんはできないことが多い。…と、岸田さんは思っていたのだ。

しかし、他者と関わることにより、岸田さんが知らぬ間に弟さんは成長していた。そして、岸田さんは思わぬ形でそれを知ることになる。

そのくだりが、なんとも愛おしいのだ。特に「弟がひとりで美容室に行ってて、姉は腰を抜かした」で表現されている弟さんの変化に、私はやられてしまった。結末に吹き出しつつも、胸がじーん。会ったこともないのに、ちょっと離れたところから弟さんの成長を見守るおばさんみたいな気持ちになり、しばらくその余韻に浸った。

そう、人は成長する。ずっと同じ状態が続くはずがない。当たり前のことなのだが、子育て中、私はそれをよく忘れて子供に接していた。

たとえば、忘れ物が多い子供に「忘れっぽいんだから、前の日に準備しなさい」とうっかり言ってしまう。英語が苦手なんだなとわかったら、「あなたは英語が苦手なんだから…」みたいに言ってしまう。

私がそれをやるたび、夫はプンプン怒りながら、強く私をたしなめた。

「そういう言い方をしたら、自分はずっとそういう人間なんだと思い込むだろ!」

何度言ったらわかるんだ、と私に対してブツブツ文句を言ったあと、夫は必ず子供にこう伝えたのだ。

「”今は”忘れっぽいんだから、工夫するほうがいいで」「”今は”英語が苦手みたいだから、対策を考えてもいいな」。

この「今は」という言葉がつくのとつかないのとでは、印象がまるっきり変わる。「今は」そうでも「未来は」ちがうかもしれない。「今はダメ」でも、「行く行くよくなる」可能性がある。これはみんな同じ。「今はそう」なだけ。未来永劫、今の状態が続くはずがない。

子供にとって、親の言うことは絶対なところがある。特に、子供が親元にいる間は影響を与えてしまう。だからこそ、気をつけないといけない。「ずっとそうだ」みたいな言い方をしたら、自分はそういう人間で変わらないと思うかもしれない、というのが夫の理屈。

なるほど、その通りと思いつつも、私はうっかり「今は」をつけ忘れ、その都度クドクド夫に怒られるというのをくりかえしたなぁ。岸田さんの弟さんのエピソードを読み、その記憶が鮮明に蘇った。

そんなことがあり、現在はすっかり「今は」にこだわって、生きている私。クドクド言われた甲斐がある(?)。

岸田さんの著書をすべて読みたい。作家読みしたいと思った著者さんは久しぶり。

が、まずはこの積読を減らさねばならん。これ以上、本を積み上げるのは危険だからね。そんなわけで、明日も読書に励もう。


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