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コットクラブ vol.56


硬いお煎餅を食べたら前歯が欠けた。

鏡で自分の歯をよく見てみると欠けた部分がトンネルの入口の形みたいになっていた。

もっと鏡に近づいて見てみると入口みたいなところで何かが手を振っていた。

"い"の口をしながら、

お前は誰だ。

と話しかけてみたけど、ずっと笑って手を振るだけで何も答えてくれなかった。

ずっと笑っているのでわたしもなんだかおかしくなって笑ってしまった。

笑いが止まらなくなり、笑うことに集中していたら何かが喉を通った気がした。

急いで鏡を見てみるとあの手を振ってた生き物がいなくなっていた。

冷や汗が流れると同時にわたしはあの生き物を飲み込んでしまったことを確信した。

会って3分間くらいの仲だったが飲み込んでしまったことに罪悪感を覚えた。

欠けた部分を見ても、もう笑って手を振ってくれるあの生き物はいなかった。

そもそもどこから現れたのかもわからない。

だからいつか帰ってくることを期待してわたしは欠けた歯を修理しないことにした。

もしあの生物を見かけた人はわたしが笑うごとに見える前歯のトンネルみたいな空洞にそっと戻して欲しい。

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