神様ノート
父さんは 長距離トラックの運転手だったから
週に2回しか帰ってこなかった。
母さんは 看護師さんをしていたから
週に何度かは 夜勤のお仕事だった。
でも、僕には ばぁちゃんがいた。
ばぁちゃんは 近くに住んでいて
母さんが夜勤の日は
学校から帰ると
ばぁちゃんの家で過ごしたんだ。
ばぁちゃんは
いつもニコニコして
よくお話しをしてくれた。
ある日、僕は
同じクラスのサトルと
些細なことで言い合いになり
ケンカをした。
サトルは体も大きかったから
全然敵わなかった。
突き飛ばされて
頭を打って
大声で泣いてしまった。
クラスメイトは
そんな僕をみて
笑っていた。
「おい!ユウスケ!
お前がサトルにかなうわけないだろ!」
そんなことを言われて
僕はオズオズと家に帰り
いつも通りの母ちゃんのメモ書きを見て
ばぁちゃんの家に行った。
しょぼくれた顔の僕を見て
ばぁちゃんは
「ユウスケちゃん。どうしたの?」
と心配してくれた。
僕はばぁちゃんに泣きついた。
「もう嫌だよ!僕は体も小さいし、
足も遅い、勉強もできないし、
九九のテストは僕だけが受かってないんだ!」
ばぁちゃんは「ウンウン」と頷きながら
頭を撫でてくれた。
そんなばぁちゃんに甘えながら
「神様は不公平だよね。
なんでみんな平等にしないんだろう。」
と聞いてみた。
ばあちゃんは
ゆっくりと いつもの穏やかな声で
語り出した。
「ユウスケちゃん、
鼻のしたのところに一本筋があるでしょう?
これはなんであるか知ってる?」
「知らないよ!こんなところに
筋なんかあっても役に立たないや。」
「ここにはね、ある秘密が隠されているの。
ユウスケちゃんがまだ、
母ちゃんのお腹に入る前の頃
天国で魂だった時代の話ね」
「たましい??」
「そうだよ、生き物はみーんな生まれる前は魂なの。
そうして、天国で次に生まれ変わるときは
どんな人生にするかを神様ノートに書くの。
大金持ちになる人
貧しい家に生まれる人。」
「えーっ!
僕はお金持ちの家がいいよ!!」
「そうだね。
でもね、お金持ちのひとはお金持ちの人で
悩みがあるんだよ」
「そうなんだ。。。」
ばあちゃんは優しく微笑みながら
話を続けた。
「ユウスケちゃんもこの世界に来る前に
どんな人生にしたいか
この人生で何を学びたいかをきめるの。
決めたら、次の人生で出会う人たちと
ここで会いましょうと約束をするのよ。
そこで互いのノートに
合う場所や時間を書き込むの。
それはこの人生ですれ違う人や
同じ電車に乗った人も
全部の人と打ち合わせをするの。」
「えーっ!それ大変じゃない??」
「そうね、大変ね。
でもね、例えば、初めてあった
お友達と話をしていて
好きなヒーローの話になり
ちょっと遠くの遊園地で行われた
そのヒーローのショーに
同じ日、同じ時間にに
偶然二人がいたことがわかって
お話が盛り上がることってない?」
「アァーあるよ!
しんちゃんとこの間、
同じ時間に同じプールに行ってて
なんで合わなかったんだろうって話してた!」
「そうそう。そんなことってあるよね。
だから、今日すれ違ったあの人も
たまたま 入ったコンビニの店員さんも
全員 ユウスケちゃんと
魂の時に 今日、出会いましょうって
打ち合わせをして
神様ノートに書いているのよ。
だから偶然は必然なのよ。
ちょっとユウスケちゃんには
難しかったわね。」
ばあちゃんがそう言って笑ったから
僕も連れられて笑った。
「それでね、
神様ノートが完成したらね
神様のところに持っていくよ。
そこで神様とお話しするの。
次の人生で何を学ぶのかを決めるの。
神様がOKを出したら
ハンコ を押してくださるから
そのノートを持って
隣のお部屋に入るの。
お部屋には カウンターがあって
係の人が棚にあるプレゼントをくださるの。
プレゼントの箱は 大きいものも
包装紙が綺麗なものもあるの。
みんなそれぞれ好きな箱を持っていくのだけど
箱の中には”個性”というプレゼントが
入っているのよ。
体が大きいとか勉強ができるとか
ユウスケちゃんみたいに
とびっきり優しいとかね。
棚の奥にはね
ボコボコにへこんだ箱があって
ずっと取り残されているの。
たまにね、
「あの箱は最後まで残ってて
かわいそうだから
僕が持っていくよ」と言って
持っていく子がいるの。
その箱の中には”障害”という
プレゼントが入っているのよ。
目が見えないとか
うまく歩けないとか
そしてその人たちは人生を賭して
たくさんの学びをするの。
だからね。
障害を持って生まれてきた人たちを
私たちは尊敬しないといけないね。」
「うん!僕、困っている人がいたら助けるね。」
「うんうん。
ユウスケちゃんは優しいね。
最後にね プレゼントを受け取ったら
天使に連れられて
お母さんのお腹の中に入っていくの。
その前に 天使が 引き止めて
神様ノートのことは内緒よ!と
指を口にシーって押し付けるのよ。
その指の跡がこの鼻の下の筋なの。」
「じゃあ!これは天使の指の跡なの??」
「そうよ。だからね、
みんないいところがあって
みんなダメなところがあるよ。
そして、出会った全ての人は
予め約束してた人たちなのね。
だから、平等か不平等か、
それは全部ユウスケちゃんの
心が決めているのよ。」
「うん。」
僕はわかったように頷いたけど
ばぁちゃんの言ったことは
あまりよくわからなかった。
でも、その時のばあちゃんの笑顔が
とても温かったから
僕の気持ちはポカポカした。
きっと、
僕が大人になった時、
ばぁちゃんの言葉は
今のように心をポカポカにしてくれると思う。
おしまい
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