【短編シナリオ】カトマンズの恋人

大学生の男の子が美人の彼女を置いてネパールに行き、そこで出会った人と付き合いはじめる話です。

シナリオセンター本科課題「かなしみ」

タイトル:カトマンズの恋人

【人物】
田辺 のどか(21)大学4年生
野木 祐介(21)大学4年生
瀬戸 祐理(30)無職

〇祐介の住むアパート・全景(朝)
   2階建て外廊下の素朴なアパート

〇祐介の部屋・居室(朝)
   朝日がさしている。
   ベットで寝ている田辺のどか(21)と野木祐介(21)。
   時計の針は7時。
   起き上がるのどか。
   のどかはスレンダーで整った顔立ち。
   しっかりと化粧をし、体のラインが出   
   る服に着替えるのどか。
   金の馬蹄のネックレスをつけるのどか。
のどか「祐介?私大学行くけど。祐介も今日一限あるんじゃなかったっけ?」
   寝ぼけてうなっている祐介。
   ため息をつくのどか。
のどか「行ってきます」
   部屋を出るのどか。
   寝ている祐介。
〇大学・構内
   颯爽と歩いているのどか。

〇大学・食堂
   学生たちでにぎわっている。
   向かい合って食事をしている祐介とのどか。
   のどかの驚いた表情。
のどか「ネパール…?」
祐介「夏休みに行って来ようと思って」
のどか「なんで?」
祐介「行きたいから。大学最後の夏だし」
のどか「私は単位も取れてるし就職も決まってるけど、祐介は就職決まってないし卒業だって危ないじゃん。最後じゃないかもよ」
祐介「それは…どうにかなるよ」
のどか「私と遊びたいとは思わないの?だって大学最後の…2人でゆっくり過ごせる最後の夏かもしれないんだよ」
祐介「もう決めたんだよ。飛行機のチケットだって取ったんだ」
のどか「…そう」
   会話をせず、食事を続ける祐介とのど  
   か。

〇祐介の部屋・居室
   ベッドでゴロゴロしているのどか。   すっぴんで髪はぼさぼさの部屋着。
のどか「暇だなあ…。そういえば私、大学入ってから彼氏と過ごさない夏は初めてなんだ。やることないなあ…。なんでネパールなんか言っちゃうのよ」
   起き上がり、ぼーっとしているのどか。

〇カトマンズ・繁華街
   たくさんの人でにぎわっている。
   バックパックを背負い歩いている祐介。
興味深げに周囲を見ている祐介。
   パックパックからミネラルウォーター 
   を取り出す祐介。
   建物の上から祐介を見ている猿。
   祐介が持っているペットボトルに飛びつく猿。
   驚く祐介。
   にらみ合う祐介と猿。
   現地になじんだ服を着て、雑踏を歩いている瀬戸祐理(30)。
   祐理はふっくらとして恰幅がよく、整っていないが愛嬌のある顔立ちをしている。
   ペットボトルを取り合っている猿と祐    
   介に気付く祐理。
祐介「(猿に)なんなんだよお前…」
祐理「日本人…?」
   祐介に近づく祐理。
祐理「あの…」
   祐理に気付く祐介。
祐介「え?」
   気を取られた隙に猿にペットボトルを奪われる祐介。
祐介「あ」
   建物の上をひょいひょいと逃走する猿。
祐理「やられちゃったね」
   笑っている祐理。
祐介「あ、はは」
祐理「私もこっちに来た最初の日に同じことやられちゃったよ。思い出しちゃった」
祐介「よくあるんですか?こういうこと」
祐理「そうね。気を付けた方がいいよ」
祐介「いきなりカルチャーショック」
祐理「ごはん食べた?」
祐介「まだですけど」
祐理「一緒に食べない?付き合ってあげる」
祐介「ありがとう…ございます」
   雑踏の中を歩く祐介と祐理の後ろ姿。

〇祐介の部屋・居室
   引続きベットでゴロゴロしてるのどか。
   のどかの腹の音が鳴る。
のどか「お腹すいたあ」
   起き上がるのどか。
のどか「よし!牛丼でも食べようっと。久しぶり。彼氏いると、お金ある人のときはレストラン、お金ない人の時は私の手料理、だもんね。たまに食べたくなるんだけどね、牛丼。」
   部屋着のまま外に出るのどか。

〇ネパール・ボダナート
   散策している祐介と祐理。
祐理「なんで、ネパールに来ようと思ったの」
祐介「俺いま大学4年なんですけど。思い返したら4年間なんもやってないんですよ。
 自分でなんかやったとか、達成感というか何も、なかったなって。それで、なんか」
祐理「青春じゃん」
祐介「そういうんじゃなくて、なんか…逃げてきただけかもしれない、俺。就活とか、単位とか、出来すぎてる彼女とか」
祐理「(小声で)彼女…」
祐介「あ、すいません。つまんないですよね、こんな話…」
祐理「ううん、いいの聞きたい。…私も、逃げて来たようなもんだから。仕事とか、まだ結婚しないのかってうるさい親とか」
祐介「なんか、似てるのかも、俺たち」
祐理「そういえば名前聞いてなかったね」
祐介「祐介です」
祐理「私は祐理。示編に右の祐、理科の理」
祐介「あ、俺も一緒です。漢字」
祐理「ほんと?地味にレアなんだよね。ちょん付けられちゃったりして」
祐介「そうそう」
   笑い合う祐介と祐理。

〇牛丼屋・外
   満足そうに店から出てくるのどか。
のどか「はあ、おなかいっぱい」
   空を見上げるのどか。

〇飛行機・客室内
   隣同士のシートに座り、手をつないでいる祐介と祐理。

〇大学・食堂
   学生たちでにぎわっている。
   黙りこくって食事をしているのどかと祐介。
祐介「あのさ…」
のどか「何?」
祐介「別れよう」
のどか「え?」
祐介「別れてほしいんだ」
のどか「なんで…」
祐介「別に嫌いになったとかそういうわけじゃないんだ」
のどか「ネパール行ってただけじゃん。私待ってたんだよ。なんにも悪いことしてない。ただ待ってただけ。ネパール行って、帰ってきて、なんで別れるって話になるの?」
祐介「…価値観が、変わったんだよ」
のどか「なにそれ…」
祐介「のどかならすぐ新しい彼氏できるから。
 荷物は俺がいない時に入って持ってって。合鍵はポストに入れといてよ。」
   呆然としているのどか。

〇大学・構内
   とぼとぼと歩いているのどか。

〇祐介の部屋・玄関・外
   落ち込んだ表情で立っているのどか。
   鞄から鍵を取り出し、扉の鍵を開ける
   のどか。

〇祐介の部屋・居室
   入って来て部屋を見渡すのどか。
のどか「学生くさいボロアパートだったけど、
 最後だと思うとちょっとさみしいな」
   馬蹄のネックレスを外すのどか。
のどか「去年の誕生日に祐介にもらったネックレス、これも置いていこう」
   棚に置かれたネックレス。

〇祐介住むアパート・玄関・外
   大きな紙袋を持って出て来るのどか。
ポストの中に鍵を入れるのどか。
のどか「…さよなら」
   足音が聞こえる。
   足音の方に視線をやるのどか。
   祐介と祐理が仲よさげに歩いている。
   のどかに気付き立ち止まる祐介と祐理。
   気まずそうな表情の祐介。
   祐理に視線を止めるのどか。
のどか「(小声で)ほんとだ…価値観…変わってる…」
   立ち尽くしているのどかと祐介と祐理。

おしまい

備考:結局、のどかちゃんが思いのほか図太くてさっぱりしてるので、悲しみというテーマには合ってなかったかなと思います。

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