映画「ヤマト2199劇場版」感想

 監督はきっと誠実な人物なのだろうな、と思う。ドギツイ権利者たちの妄言を聞き流して我慢強く折衝を重ね、ドギツイ愛好家たちの煮詰まった脳内映像からする罵倒に耐え、ついぞ途中で投げ出すということをしなかった。演出の方法にしても伏線の張り方にしても、どこか観客の知性を信頼している感じがある。ここでこの絵を見せて、この台詞を聞かせれば、こう理解するだろうと計算してあり、観客はどれひとつとして見落とさないはずだと信じている。この意味で、是枝監督と近い方法論で映画を作ってるように見える。ただ、実写と違って、端正な演出意図を補完する俳優の肉の実在感がないため、盛り上がるべき場面でもひっかかりなくスルスルと流れていってしまう。

 全体的に淡い風味で、老舗の板前に「親爺、味が薄いよ」と言っても、「そうですか」としか返ってこない感じ。これ対して、観客を心から馬鹿にしているどこぞの監督が作ったものは、濃厚豚骨ラーメンを罵倒されながら屋台ですする感じで、しかもこの親爺、「それくらいじゃ味が足りねえだろう」とか言いながら食べるそばから柄杓でラードをつぎ足してくる。その態度にはムカつくが、ラーメンは舌が痺れるようなうまさだ。もし酔客が一言でも味に文句をつけようものなら、親爺自身がカウンターを飛び越えての場外乱闘になり、そのあと一週間は店を閉めてしまう。

 閑話休題。ストーリーは新スタートレックの前後編を思わせ、ホテルでの芝居とか、星巡る箱舟のデザインとか、すごくそれっぽい。しかし、スタートレックと決定的に違うのは、女性クルーの扱いであろう。旧作の様々な矛盾に解決をつけていった新ヤマトだが、ボディラインを強調するピッチリスーツにだけは、ついぞ「この方が勃起の傾斜角が鋭かったから」以上の説明をつけなかった。この世界では、モデル体型を維持できなくなった四十路の女性は、全員宇宙葬形式で退艦させられるに違いない。

 もし続編があるとすれば、無意識の媚びをふりまく未通女ばかりでなく、新スタートレックのガイナンみたいな魅力あるオバハンクルーに登場して欲しい。その些細なできごとは、結果として本邦のアニメの天井を押し上げる役目を担う……かもしれない。

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