漫画「劇光仮面」感想(2巻まで)

 劇光仮面の2巻まで読む。前作がバチバチのキャラクター・オリエンティッドな作劇なのに、グラップラー刃牙で言うところの「全選手入場!」の段階で終わってしまったのは、記憶に新しいところです。作者本人が「キャラ中心の群像劇を描きあげる力量が無かった」みたいな弱音を吐露をしていましたが、30年選手のベテランがいまだに手クセや予定調和を退けて、ド正面から真剣に虚構へと向きあっていることは痛いほどに伝わってきました。手クセと予定調和まみれなどこぞのシンカイ某にも、この創作姿勢を見習ってほしいものです。その挫折を受けて始まった本作ですが、こちらは作者の来歴とアイデンティティに深く根ざしたストーリー・オリエンティッドな内容で、今度こそ中絶の心配は無いように思えます。

 はじめて現実を舞台にした(だよね?)この物語には、おそらく「虚構が現実に敗北(あるいは勝利)」する結末が用意されているはずですが、強い思想性の持ち主であるにも関わらず、さらに激しいフェティッシュがそれをかき消すという作風が、今度こそ思想性にオーバーライドされてしまうのではないかとひそかに危惧しています。ぶっちゃけて言えば、私が在住する県で発生した大化の改新以来の歴史的事件を下敷きにした最終章へと突き進んで行きそうな気がしてならないのです。そうなれば、これまでの彼の全仕事が新たな視点で再解釈されることにもなりかねません。ともあれ、いま本邦でもっとも緊張感のあるフィクションのひとつであることを疑う余地はないでしょう。劇光仮面、大きな期待と不安の狭間にゆれ動きながらも、おススメです。

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