ゲーム「ファイナルファンタジー16(デモ版)」感想

 ファイナルファンタジー16のデモ版をダウンロードし、最後までプレイ。デモ版とは言いながら、冒頭から2時間ほどをたっぷりと遊ばせ、さらにはオマケとして序盤のクライマックス・バトルまで含まれており、近年のJRPGに顕著な「過去タイトルの威光を借りて、初動だけを最大化させて売り逃げ」をねらったのではない、制作サイドの確かな自信がうかがえます。ここからは、本シリーズの全作をプレイしており、2から15ーー14は除く、理由は後述ーーはほぼ発売日のリアルタイムで手に取ってきた人物の感想になります。ファミコン時代の体験から、「ゲームは匿名性をまとうべきで、作り手の名前が悪めだちしてはならない」という持論の持ち主なので、14のプロデューサーでもある本作の制作責任者にはまったく良い印象を抱いていませんでした。なんとなれば、シリーズ中もっとも愛してると言っていい11を、新生とやらに予算をブンどって実質的な更新停止へと追いこんだ人物だからです。なので、このデモ版にしても期待値はゼロ以下の状態から、どうやってクソミソにけなしてやろうかと手ぐすねをひいていたことは、ご理解いただけるでしょう。

 オープニングを終えて、操作の初ッ端からカメラが合わず、左右に少し振っただけで腸が蠕動して偏頭痛の気配を感じる始末で、あやうく評価以前にコントローラーを置きかけましたが、描画を「パフォーマンス重視」に切り替えてカメラ速度を調整し、なんとかプレイを続行できるレベルに落ち着きました。岩山ばかりのロケーションには「まともな背景を作れないからだろうな!」と毒づき、イケメンが脈絡なく落石に潰されるのを指さして爆笑し、イケオジの「まだ任務は終わってないぞ!」の激励には「オイオイ、始まってもいねーよ!」と思わずツッコミます。唐突なブラックアウトから過去編が始まったのには、「古今東西、回想が面白かったためしはねえからな!」とブツクサ文句を言いながらプレイを続けたのですが、次第に受ける印象は変化していきました。かつてのように最先端とまでは言えないものの、ロード・オブ・ザ・リング以降のファンタジー海外ドラマを思わせる中世ヨーロッパの世界がキチンとグラフィックで表現されており、特に屋内の暗さと屋外の明るさの対比にはハッとさせられるものがありました。キャラも13のようなアニメ調ではなく、美形ばかりではありながら、実写に近づける方向でデザインされているのも好印象です。

 最初のクエストであるゴブリン退治を進めているとき、身内に懐かしい感覚が蘇ってくるのを感じました。それは、12ぐらいまでは確かにあった、国民的大作RPGが提供する広大な処女雪に最初の一歩を踏み入れるときの、なんとも言えないワクワク感です。奇矯な造語とハレンチな服装の女主人公でオリジナル作品の悪い見本となった13、数年にわたる紆余曲折の末に経営判断で瓦礫の寄せ集めへ無理矢理ナンバリグした15と比べて、本作ははるかに「ファイナルファンタジーしている」と言えるでしょう(竜騎士の登場シーンなんて、思わず泣き笑いみたいになりました)。もっともその中身は、西洋文明に憧れた東洋人の子どもの考える「大人のファイナルファンタジー」ではあるのですが、「ホストたちがキャデラックを転がしながら、カー・オーディオでスタンド・バイ・ミーを流す」みたいな気のくるった妄想キメラよりは、何百倍もマシなものではあります。

 召喚獣戦の後、旧エヴァの影響を色濃くただよわせるムービーを見ながら不思議な高揚感に包まれ、ただちに"BUY NOW"を押下しました。最近では中華RPGへ湯水の如き賛辞と課金を施しながらも、やはりドラクエとエフエフには「当世で一番」であってほしいという気持ちが、どこかに残っていたのでしょう。デモ版で切り出された部位が、ゲーム全体で最上のものだったという可能性もなくはないですが、いまはかつての少年の日々のように、発売日を指折り数えて待ちたいと思います。

 ゲーム「ファイナルファンタジー16(製品版)」感想

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