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『どうせ殺すなら、歌が終ってからにして』に関して:その1

初めまして。『ゴリラ裁判の日』で第64回メフィスト賞を受賞しました、須藤古都離(すどうことり)と申します。
今回はメフィスト2022SUMMER VOL.4に掲載された短編、『どうせ殺すなら、歌が終ってからにして』に関して書きます。
受賞が決まってからこんなに早く、メフィストリーダーの皆さまに作品をお届けする機会があるとは思っておりませんでした。
新人作家として、とても恵まれたスタートを切ることができたと思います。

最初に白状しますと、実は私はミステリーが苦手です。特に本格ミステリーですとか、探偵小説などは殆ど読んだことがありません。そんなわけで、メフィスト読者の皆さまに自分の作品を楽しんでいただけるか、若干の不安を覚えながら短編を書きました。Twitterなどで感想を頂けると、とても嬉しいです。

短編の依頼を受けた時に、自分の過去の作品を振り返り、何か「メフィスト的なもの」のストックがないか考えましたが、満足できるものはありませんでした。なんとなく「メフィストっぽいもの」を書いても、面白いものなんて書けないだろうと思ったので、自分の書きたいものを書かせていただきました。
自分が本当に書きたいものはなんだろうと、一晩ゆっくりと考えて思い出したのが、2018年に聞いたラジオ番組でした。

NPR(米国公共ラジオ放送)のInvisibiliaという番組の1エピソードで、過激派組織に歌を禁じられたソマリアの首都、モガディシュで歌番組の収録がされるという内容でした。以下のリンクで聞けます。英語で50分という長さですが、スクリプトも載っているので、リスニングが苦手な人でも翻訳ソフトを使えば、なんとなくわかるかもしれません。

小説のジャンルではSFが一番好きなので、『1984年』『華氏451度』などのディストピアものに馴染みがあります。ラジオで語られるモガディシュの過去は、まるでディストピア小説のように感じられました。
(ディストピアという言葉を軽々しく使いたくないとは思ってますが…)
歌を禁じられた、荒廃した都市。
そのように短編を書こうと思っていました。

しかし、参考文献にも載せた高野秀行さんの本でモガディシュ、ソマリアで生きる人々の様々な姿を読むと、自分の短編の中でモガディシュを「荒廃した街」という言葉に落とし込むことに違和感を覚えました。
それは人々の頭の片隅にある「アフリカ=発展の遅れた国、治安の悪い都市、ウォーロードによる恐怖の支配」というステレオタイプの再利用に他ならないと感じたのです。それは物書きの姿勢として誠実なものではないなと。

フィクション作品においてリアリティとは数あるパラメーターの一つに過ぎません。作家が好き勝手に物語を現実に寄せることも、距離を保つこともできます。
エンタメ性を求める際に、現実が内包する複雑性を排除することがあるのだ、と今回の短編を書きながら実感しました。
新たな視座を持たせるために、意図的に現実を歪めることもしました。
私はこの短編を書くにあたって、実在する街の現実を歪め、単純化したことに一抹の罪悪感を覚えずにいられませんでした。

作家というのは、嘘をつく仕事です。
ですがそれはただの嘘ではなく、現実を反映した嘘です。

なんで私たちは物語を求めるのでしょうか。
なんで私たちは物語を創るのでしょうか。
それは「現実・世界の断片を言葉で紡ぎ、ありえたかもしれない虚像を作り上げる/その虚像を観察することで、自分たちの世界の歪みを確かめる儀式」なのだと個人的に思っています。
この作品が、誰かにとってモガディシュという街に目を向ける切っ掛けになれば幸いです。

「おもしろくて、ためになる」これは講談社のモットーですが、自分もそんな小説を書き続けていければ良いな、と思っています。

作品中で「スターズ・イン・ソマリア」と題した番組は、実際には"Inspire Somalia"という番組です。

youtubeで検索するとシャークタンク(アメリカの人気番組)のような起業家が投資家にピッチをするエピソードは見つかります。しかし、歌のコンテストは投稿されておりません。その理由は、短編を読んでくれた方なら想像がつくと思います。

是非、ネットで動画サイトでモガディシュを検索してみてください。モガディシュの美しい海岸を見てみてください。


そして、高野秀行さんの本を読んでみてください。単純に面白いです。

プロの小説家としてスタートラインを切ったばかりの若輩者ですが、初心を大切にしたいと思いますので、今回感じた作家、小説家という仕事の違和感をここに綴っておきます。
初回から生意気なことを書いてしまい、申し訳ありません。基本的にめんどくさいことをクドクドと考え続けるタイプの人間なのです。

今後も色々と書いていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

須藤古都離



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