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イイコノハラワタ 1(正しくなれない街)

「世界なんて滅びればいいのにって顔してるね。君、顔に出やすいって言われない?
でも、普段はいい子ぶってる臭いがする。アタシにいきなり話しかけられて、対応に困りながらも笑顔でお茶を濁してるその感じ。疲れないそういうの?

君が言えないこと、言ってあげよっか。そのために、アタシは来たんだ。

いい子ってさ、正しいことをしなさいって教えられるじゃん?そうすれば大人たちに認めてもらえてた。
でも、社会に出たら正しいことなんてなーんの役にも立たないんだよね。人間ってそもそも正しく生きられないからさ。間違ったことばかりに直面する。

お前は使えないって言う上司さ。アンタが使いこなすことができないだけじゃん。使えない上司ってことを自白してるわけ。でも、そんなことが当たり前のようにまかり通ってる。

電車で飛び込み自殺があってもね。SNSでは迷惑かからないようにしろ。みんな必死で生きてるのに迷惑かけるなってさ。必死で生きてた仲間がそこに飛び込んだんじゃないの?明日は我が身だよ?アンタが必死で生きてるならさ、その仲間の苦しみをちょっとだけでも考えてみたらどうかな。

なーんてね!できないんだよね、それが。しょせん他人だから。みんな自分のことで精いっぱいよ。この社会で正しさなんて貫く暇も余裕もないわけ。

だから君もさ、正しさなんてものに縛られないで、もうちょっと間違いなよ。正しくあろうと思うほど、自分も他人も許せなくなるだけ。追いつめられた破壊衝動は、自分に向かうか、世界に向かうか。どっちにしても、壊れちゃうよ。

君みたいに世界なんて滅びればいいのにって顔をしてる人を見るとさ、話したくなるんだ。自分も世界も滅びなくても、ちょっとは楽しめることもあるんじゃないって。つらくなったらここに来て。話なら聞くからさ。LINE?いや、スマホは持ってないんだよね。君、気づいてなかったの?

だって、アタシは幽霊だから。君は話をマジメに聞きすぎて、観察がおろそかになるタイプだねえ。まあ、そういうこと。死んでるアタシには暇も余裕もいっくらでもあるから、また来なよ。じゃあね」

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