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イイコノハラワタ 2(星くずの屋上)

「立派な望遠鏡ね。って、いきなり話しかけたのは悪かったけど、そんなに驚かなくてもいいじゃない。都会でも星が見えそうな澄んだ空だわ。ビルの屋上ってさ、ちょっとドキドキしない?冒険してる感じがするっていうかさ。わかんないかなあ。まあ、いいけど。
 
ところでさ、見えないモノを見ようとして望遠鏡を覗き込んだって歌詞があるじゃない?
 
天体観測なら素敵な趣味だけどさ。人の生活や心を覗いたらまずいと思うよね。でも、人間ってそういうの大好物なんだよね。人間の本性ってやつ?
 
遠くに浮かんで近づけない──好きな人や、有名人。星ではなくスターを覗き見る。好奇心は猫だけじゃなく、人をも殺すことになる。そういう人はね、知りたいという欲求が何を起こすかを知らないの。
 
望遠鏡を覗き込んでいる人には、足元なんて見えないからさ。灯台下暗しってやつ。詰みまで罪に気づかないわけ。世の中には知らない方がいいことがあるってことを知れって話ね。知ったところで、世の中にはどうにもならないことの方が多いんだから。
 
君は何を知りたいの?
君は何で知りたいの?
知らなければ、気づかないフリをしなくて済むのに。
 
というわけでね、午前二時にビルの屋上から他人の部屋を覗こうとしている君を止めたってわけ。お前は誰だって?灯台くん、ちゃんと足元を見なさいよ。アタシの足、ないでしょ?幽霊なんだ。散歩してたらさ、不審者がいたから止めてあげたわけ。アタシって死んでも偉いよねー。誰からも褒められないのに、いい子だわ。
 
君が今からどうするかは任せるけど、どこへでも入っていける幽霊の立場から言わせてもらうと、覗き見ていいものが見られたためしはないわね。その人が見せないってことは、周りから見えないことに意味があるものなのよ。人間なんて全部見ようとするより、見えないところがあった方が魅力的じゃない?
 
アタシでよかったら話聞くからさ。その望遠鏡はいらないからね。体はちょっと透けてるけど、君にはきちんと見えるでしょ?
 
また来なよ!じゃあね」

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