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さて、妄想を始めよう

私は妄想女子である。

電車に乗れば痴漢されることを妄想し股間を濡らして、いつ下着を交換しようかそれともその湿った感覚を楽しむのもまた一興かと悩んだりもする。

朝帰りらしいよれよれのスーツを着た男性が何人分かの席に横たわり熟睡しているのを見れば、まるで自宅のベッドのなかで安眠しているかのような腑抜けた寝顔を見て微笑ましく思ったりもする。

と、同時にむくむくと悪戯心が沸き上がり、その耳たぶに噛みつきたい欲求にかられたりもする。

痴漢されることを想像し股間を濡らすのも良いのだが、たまには好みのスーツを纏った異性の股間を撫でくり回したい妄想に取り憑かれることもある。

さてさて、そんな私は変態であるが、皆一様にそんな面を隠し持っているのである。

例えば、今電車に乗り込んできた盛夏服を着た女子は、私の見る限り紛れもなく変態の一種であろう。

外は雨が降っている。


女子は小走り、息が上がっている。


手には通学鞄を持っているが、傘はない。

つまり、彼女は僅かに濡れた状態であることが分かる。

とどめに、真っ白な盛夏服ときたら、これしかない。

「今朝天気予報を見る時間がなく雨が降ることは知らず、折り畳み傘すら常備していない。もしかしたら雨に降られるかも…もしかしたら豪雨にさらされるかも…ああ、そんなことをしたらこの白い盛夏服が透けて下着が見えてしまう…なんていけないことをしているのだろう、破廉恥な…という若干のスリルを楽しみつつ、普段は清楚系を気取っているもののその実露出癖の片鱗をじわりと滲ませている変態な女子」

ああ…

なんていけない子なんだ…!!

そして盛夏服ときたら真夏に着る服というイメージがあるのに、まだ春先の寒いこの時期に身に纏っているということは

「変人というレッテルを貼られて透けた下着を不特定多数の人間に見てもらいたい欲求をもつM女」

であることは間違いない。

素晴らしい!!

なんて逸材なのだろう!!!

ぜひ、私と変態話に花を咲かせて欲しい!!!

私は、車窓から鈍色の空をぼんやりと眺める幼い女子に声をかけようと、寄りかかっていた手摺から上体を起こした。

は、と息が止まった。

……

………

上体を起こしたと思ったその視線の先には、なんとも悲しいことに、剥がれかけた白い壁紙ーーーー見慣れた自宅の天井があった。

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