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「小池典子 箏・三絃・胡弓 リサイタル」

数多くの舞台で素晴らしい演奏を披露してくださる小池典子さん。
記念すべきリサイタルと伺い、万難排して馳せ参じました。
 
長磯箏での「梅が枝」
柳川三味線での「ゆき」
胡弓での「荒城の月」
三絃での「尾上の松」
いずれも小池さんでなければ叶わないプログラムです。
 
合間に、野川美穂子さんによる楽器の解説がありました。
長磯箏は、京都を中心に使われた装飾性に富んだお箏です。
普段見かけるお箏より、長さも10cmほど長くなっています。
美しい装飾は、箏の左右側面に施されています。
螺鈿や蒔絵の細かい模様が象牙の白いラインで縁取られています。
絃を張るところ(龍角)に枕糸と呼ばれる組紐状の糸を渡しているため、とても柔らかい音がします。
この糸も、先端に房がついていて、客席から見ていると、これまた美しいものです。

柳川三味線は、京都に伝わる古来の姿を残している三味線、とのことで、現在一般的に使われているものよりも、棹が細いのが特徴です。
バチも細く、繊細な音色です。
これらの楽器は、休憩時間にロビーに展示してくださり、間近に拝見することができました。
 
「梅が枝」
八橋検校作曲の箏組歌。6つの歌(和歌)を歌いながら、演奏されます。
ゆったりとした旋律に、美しい歌声と長磯箏の柔らかい響き。
一気に雅な世界に引き込まれます。
聴いていると、じわーっと手先足先が温まってきました。
全身の細胞がリラックスして、恍惚状態に陥りました。
なんて心地よいのでしょう。まるで温泉に浸かっているかのようです。
いろんな演奏を聴いていますが、こんなにいい気持ちになったのは初めてです。
 
「ゆき」
地歌というジャンルの曲です。
地歌とは、江戸時代に上方(京阪神)で盛んだった三味線による弾き歌いの曲です。
芸妓さんを務めた後仏門に入り亡くなったソセキという女性の追善曲と伝えられているそうです。
詩情豊かな歌詞が、しっとりと歌い上げられます。
繊細な柳川三味線の音色で、一層切なさが募ります。
こんな曲を贈られたという女性は、どんな方だったのでしょう。
こんな曲を贈った方はどんな方だったのでしょう。
女性を知る人がいなくなっても、演奏され伝えられてきたこの曲の素晴らしさと共に、先人達の生き様に、思いを馳せてしまいます。
 
「荒城の月」
今回のお楽しみの一つは、胡弓でもありました。
生で聴く機会はあまりありません。
見た目は、小さな三味線を膝の上に立てて弓で弾いています。
弦に当てる弓の角度は、胡弓本体を回して調整します。
そのため演奏中、胡弓はあっちを向いたりこっちを向いたり。
弓はゆるーく張ったふさふさの馬のしっぽです。
 
お馴染みの「荒城の月」を、宮城道雄が編曲した箏と胡弓の二重奏で演奏されました。
お箏は遠藤千晶さん。
この方のお箏を聴くのもこれまた楽しみの一つでした。
宮城道雄らしい、しっとりしながらも華やかな部分もあり、とても変化に富んだ編曲です。
箏と胡弓、それぞれ相手を引き立てる部分もあり、両者の掛け合いもあり、箏の音も、胡弓の音も、堪能できます。
遠藤さんの素敵なお箏はもちろんのこと、小池さんの胡弓のなんと素晴らしいことでしょう。
様々な奏法、(たぶん)超絶技巧の数々をさらりとこなしながら、描き出される月の風情。
「荒城の月」がこんなに素敵な曲だったなんて、知りませんでした。
胡弓がこんなに魅力的な楽器であることも。
 
「尾上の松」
地歌の大曲に宮城道雄が箏パートを付けて大ブレイクした曲です。
箏、三絃(三味線)、尺八で演奏されます。
今回、箏は小池さんのお師匠さんであられる矢﨑明子さんの予定でしたが、体調不良とのことで、遠藤千晶さんが務められました。
尺八は善養寺惠介さん。
なんという贅沢。
おめでたい歌詞、御代の繁栄を祝すゴージャスな曲で、夢のようなひとときが締めくくられました。
 
今日もまた、幸せな気分で家路につきました。
 
*「さん」とお呼びするのは、大変失礼であると重々承知しておりますが、「客席からの眺め」では、「先生」方も、「さん」付けで表記させていただいております。何卒ご了承くださいませ。
 
*箏の波では、演奏会情報をご案内しております。是非、生の演奏を聴いてみてください。
https://gainful-butter-9171.glideapp.io/
 
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会場 紀尾井ホール小ホール
日時 2023年5月3日(水・祝) 16:00
プログラム
梅が枝 作曲/八橋検校
 長磯箏 小池典子
ゆき  作曲/峰崎勾当
 柳川三味線 小池典子
荒城の月 編曲/宮城道雄
 箏 遠藤千晶 胡弓 小池典子
尾上の松 作曲者不詳 宮城道雄 箏手付
 箏 遠藤千晶 三絃 小池典子 尺八 善養寺惠介

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