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『イマジン?』ーその先にあるもの

新刊だ。待望の、待ちに待った、新刊だ。
棚一面に並ぶ爽やかな表紙に心が動く。
「有川浩」ーあらため「有川ひろ」さんの最新作『イマジン?』(幻冬社刊)。
映像制作の現場が活き活きと描かれた作品だ。
読んでいてまず思ったことは、「有川さんだから書ける世界だ」ということ。
大ヒット作を世に送り出し、映像化を多くされている作家としての武器を使えるだけたっぷりと詰め込んでいる。フィクションだけとは言い切れないであろうエピソードの数々が、この一冊の世界を大きく広げている。
テンポの良い台詞の応酬、言葉選びのセンスの妙、そして、登場人物たちの熱量。
これだよ、これ、有川さんここにありだよ!とページを捲る手が止まらない。
映像作品を支える多くのスタッフ。とんでもない広い世界。それをうまく拾っている。
全部が全部描ききっていないのに、現場の沢山の人が見える。それがすごい。
規模はかなーーり小さくなるが、私も小劇場の制作や演出助手諸々裏方の経験のある人間だ。現場で思い通りにいかないことが多いこと、小さな雑務が多くてでもそれがとても大切なことであることは骨身に刻まれている。
「走るしか能がないんだから走れ」は
「なんもできねえんだから返事ぐらいデカイ声でしろ」と
言われた経験を思い出す。誰よりも早く、でかい声で演出や舞台監督に応えた。
差し入れ一つ、スタッフ同士のやりとり一つ、小さな気付きの積み重ね。そして、その先を想像する力がいかに重要か。痛感、という言葉が、小説を読みながらこれほど当てはまることは久しぶりだったろう。
良いものを作りたいーその想いは愛だ。私がこうやって言葉で刻むと虚しいくらい薄っぺらく思えるが、でもやっぱり、愛のある現場というのは、居心地が良い。
舞台はロケハンこそないが、台本を読む時点で、場面ごとに必要な画を考えるのは同じだ。時代、場所、人物の持ち物、衣装、生い立ちー物語が生きる為のものづくりは本当に楽しい。小道具は物言わぬ役者ーこれも散々言われてきたことである。
今回の主人公を誰とするかは、まあちゃんとあるんですが、個人的には誰でもなりうるくらいのエピソードを持っている、と思わせるのがこの作品の魅力だ。
誰に一番想いを重ねるか。是非手に取って欲しい。

さて。
「あー面白かった」
と本を閉じられたら良かっただろう。
今回の読後感は、うーんと伸びをする気持ち良さというより、大きく深呼吸をして自分に落とし込む気持ち良さだった。こわいくらいに有川さんに心の柔らかいところを刺してもらったからだろう。
主人公にはきっかけとなった折り目ー「夢のドックイヤー」がある。
あの場所にいつか行くんだ、と心に刻んだ想いが捨てきれず、その想いが
夢が叶っていないこと、自分が今別の場所にいる自分に「痛み」を与える。
そうなんだよ。痛いんだよ。
痛くて痛くて痛くて痛くてどうしようもなくて、その痛みに向き合える強さがなくてその折り目を開くことができない。でも心のどこかでずっと折り目をつけたまんま。
ーそれがリアルタイムで刺さった。

「勇んで強く折れば折るほど叶わなかったときの折り目は痛い。そういうもんだ」

悔しいかな、上司の言葉に主人公と一緒に泣いた。恥ずかしい。
でも…痛くて良いんだ。
それは卑屈になった自分の心を解いてくれるようで、また立ち止まっている自分の背中を叩いてくれるようで、ああ、私もまだ頑張ってみたいのか、と心に落ちてきた。

「夢が叶ったんだから、夢の続きを考えなきゃね。」

前を向こう。前を向きたい。
私にもその先を想像することが、まだ許されているのなら。

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