心の隙間を埋めるように本棚を埋める
引越しを機に、部屋に本棚を迎え入れました。
学生時代、収納の多い寮暮らしだったのを良いことに、漫画を無節操に買ってしまい、結局実家に送り返す、という所業を行ってから、自らの戒めのために約6年もの間本棚がない生活を送ってきました。
しかし蓋を開けてみれば、食器棚として買ったはずの棚には一枚も皿が入れられず、衣装ケースは漫画で埋められ、入りきらない本たちは枕元に積まれる始末。なんとこれは本に対して礼を欠く行いをしていたことか。
電子書籍市場が広がるこの令和になっても、私は紙の本というものに執着してしまいます。もちろん、食わず嫌いはよくないと思い、電子書籍に触れたこともありました。しかし結局どうして、最後は紙で揃えたくなってしまうのであります。
資源面、管理面、入手面、どの点においても、電子書籍が合理的だと言えるでしょう。しかしどうやら私の中には、紙媒体に対して非合理的な魅力を感じてやまない心が刷り込まれているようなのです。
何がそんなに良いのか。
まずは根本的に紙の本で育ってきたからだと思っています。本の読み方、というものが紙媒体で読むように身体的に刷り込まれているのではないでしょうか。
例えば、本の大きさ。ハードカバー、文庫、新書、漫画など、持った時の厚みや重さ、読んでいる時の終わりまであとどれくらい、というページ感覚は紙ならではです。電子書籍の「○○/○○○」のページ表記に違和感を覚えてしまうのは私だけでしょうか。
次に、紙の本には中身の魅力に加えて、外側の魅力にも溢れているところだと思います。
カバーとカバー下のデザイン、使われている紙や印刷の方法、スピン(しおり)の有無、遊び紙の色、背表紙の雰囲気や帯の存在…挙げればキリがないほどですが、本、という作品自体にも面白さがあるのだと思います。印字される字体や紙の色も作品によってこだわりがあるものもあります。作家さんと、編集者さんや装丁、印刷所、様々なプロフェッショナルの手を渡って完成してゆく過程にも、胸躍ってしまうのですね。
最後はかなり少数派だと思いますが、書き込みや付箋を貼って読める、という点です。私は気に入った作品があると、その中でも気に入った言い回しや台詞などに付箋を付けながら読むことがあります。後ほどその部分を読み返して、ノートに書き留めたり、初めて知る言葉や読めない漢字を調べて書き込んだり。要するにアナログなんですね。
というわけで、私の紙媒体から離れられない人生はまだまだ続いてゆきそうです。
類は友を呼ぶというのか、出版不況と言われながらも、紙本好きの友人がちらほら存在しております。
少し、道がそれますが、同人誌を集めている友人もおりまして。
すごいんですよ、数ページのものからハードカバーみたいに厚いものもあって、また良いお値段するんです。それこそネットで発表している作品ならいつでも無料で読めるのでは?なんて最初は思っていましたが、
「ネットはね、消えるから!10年後20年後に変わらずそこに居てくれる保証はないの。あくまで作家さん(神)のご意志だから、消されてしまうことなんてあっという間なの。だから、紙で出してくださるのはすごいありがたいの!紙で!欲しいの!すぐ手に入らなくなっちゃうんだから!」
と言う切実な叫びにハッとしました。
突然ですが「七つの黄金郷」という作品をご存知でしょうか。かの有名な「エースを狙え!」の山本鈴美香先生が1977年に発表された未完の作品です。私の母は現在、当時のコミック版を探しています。しかも新品を。文庫版なら販売中なのですが文庫だと圧縮されてしまっていて本意ではないとのこと。当時のコミックスも時折フリマアプリなどで出品されているのを見かけるのですが、中古は最終手段で…と言いながら、気長にネットの海を探しているのです。復刊、新装版、という可能性もゼロではありませんが、この出版不況の中、あまり明るい予想とは言えません。
かくいう私も単行本未収録の短編が読みたくて探している作品があるのですが、雑誌掲載からもうかなりの時間が経ち、手に入らない状態。掲載時は「どうせすぐ単行本化されるだろう」なんてたかを括っていたのがいけませんでした。もしかすると、次に販売される際は電子版のみ、という可能性もあり得ます。そんな、欲しい本が手に入らなくなる事象がすでに起こっていました。
また、最終巻だけ買いそびれてしまっていた昔の作品、といってもほんの5、6年前なんですが、そんな作品を探そうとすると「お取り寄せ」か、絶版か、どちらかになっていて戦々恐々としています。
中古本が嫌いな訳ではありませんが、紙本が好きと主張するならば、できるなら新品で、本屋さんで買いたいというささやかな想い。
しかしながらそんな想いも在庫が無ければ叶わないのです。そしてやはり発売からの売れ行きがその後の増刷に関係してくるわけで。
今書店に並んでいる本達も、落ち着いたら揃えよう、なんて悠長に構えていたら絶版に…なんてこともあり得るかもしれないのです。そう思うと、私の本棚に並んでいる子たちがさらに愛おしく感じてきて、ますます手放せなくなってしまうのです。
もしかするとそう遠くない未来、紙の本は贅沢品になるのかもしれません。でも、出版社さんが紙で出版してくれる限り、紙の本を作るプロフェッショナルがいる限り、私はきっと本棚を埋め続けるのでしょう。
最後まで読んでくださってありがとうございます。