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『本と鍵の季節』ー最後の一文に何が続くだろう



米澤穂信『本と鍵の季節』集英社(2018)

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物語は、高校の図書室から始まる。クラスは違うが同じ図書委員として仕事をする二人の高校二年生ー堀川次郎と松倉詩門。彼らの何気ない日常の一コマに持ち込まれる依頼や謎の数々。お人好しな堀川と少し皮肉屋な松倉のコンビの軽妙なやりとりが心地よい。二人の推理のその先にあるものとはー。
全六編の物語は、最後の二編以外は別々の物語なので、最初の四編はどこから読んでも楽しめると思うが、最後の二編は必ず最後に読んで欲しい。四つの推理があってこそ、二人の性格や距離感に引き込まれていき、また最後の一文がぐっと効いてくる気がするのだ。

読後の一番の感想は「ほろ苦い」だった。物語の中で謎は確かに解かれていくが、後味すっきりの大団円ではない。どこか口に中にじゃりっとしたものが残るような、少々後味の悪さがある。この後味の悪さが作品の魅力でもあるのだが、表紙や見返しの遊び紙にあえて爽やかな黄緑を使ってあるのがまた面白い。物語から浮かんだイメージ色は銀鼠だったので、最初は少し違和感だったのだ。この黄緑は爽やかすぎる。しかし、ふと読み終わって表紙を見たとき、全てがかつての思い出として昇華されたような気がした。窓から差し込む光、図書室の静かな空気、高校生というもう戻らない時間ー考えすぎかもしれないが。

堀川と松倉は会話といい思考といい、高校生らしからぬ二人だ。(もし彼らと口げんかでもしようものなら簡単に論破されそうである)
そんな彼らが、出会った謎をひっそりと紐解いてゆく。しかし、その謎の真相をはっきりと白日の元に晒さない。白黒させないからこその先述の「ほろ苦さ」なのだが、そのバランス感覚が良い。彼らは頭脳明晰な名探偵でも、敏腕刑事でもない、ただの高校生なのだから、それが現実味を持たせる気がする。
謎は魅力的だけど、その裏に隠れた生々しい現実は胡乱なままにしておきたいこともある。
「昔話を聞かせておくれよ」のこの一文が象徴的だと思う。

乗りかかった船ではあるけれど、船は想像していたよりも遥か遠くに来てしまった。

彼らが解いてしまった謎の大きさと、それ以上追求することを辞退する堀川の素直な心情。
はっきりさせたくない、はっきりさせないほうがいい、そんなこと日常には沢山あるよなぁと思ったり。結局その後、堀川なりに真実に近づくわけだが、それでも物語は本当の解決を記さずに松倉を待つ図書室で終わる。この後どうなったのか、読み手が自由に考えられる空白が魅力的な読後感を与えてくれる。

蛇足1
どうでもいいですが、パセリコーラと紅緑茶オレが気になったワタクシでした。

蛇足2
個人的には純粋な謎解き感があって三本目の「金曜に彼は何をしたのか」がすきです。



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