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江國香織さんの世界

一番好きな作家さんを挙げるなら、私の場合は「江國香織さん」。

たしか初めて読んだのは、中学生の頃に『すいかの匂い』だったかな。
文庫の装丁はすうっと透明感のある涼やさがあって、でも短編の中身はぞくりとするような仄暗い美しさ、というギャップが印象的だった。

その後、艶っぽい恋愛の配分が多い作品も読んだし、むしろそういった色が薄い作品も好んで読んだ。小説にしろ、エッセイにしろ、江國さんの作品は読んでいて贅沢な気持ちになれるところが特に気に入っている。こっくりして口溶けのよいレーズンバターを食べているみたいな。

いくつかだけ、好きな作品を。

『抱擁、あるいはライスに塩を』
世間ではふうがわりな家族と言われてしまうような彼らを、その一員のまなざしで見つめていると、みるみる愛着がわいてくる不思議。家の中や、庭、食卓、どの風景も何故かなつかしくて泣きそうになる。ちいさい子から大人まで、自分の胸に問うて、その行動や言動が美しいかどうかを、きちんとわきまえている。そういう誇り高さを感じる。

『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』
好みがわかれるだろうなあと思う。私は拓人の世界の受けとめ方に、共振するものを感じてしまった。だからドキッとするくらい続くひらがなも、その子の世界に浸っていたら違和感なく受け入れられた。こどもの社会性の発達という軸に当てはめると見失ってしまう、その子だけの感受性がまぶしかった。

『雪だるまの雪子ちゃん』
雪子ちゃんの、世界に自分を開いている感じがとてもキュートで勇敢。冒険してないな、守りに入っているな、という時に読みたくなる。雪子ちゃん自身はもちろん大好きなのだけれど、雪子ちゃんを見守る大人たちが、よい大人であることがすごく安心する。

『すきまのおともだちたち』
おともだちの関係性がいいなあと思う。年齢や、どこに住んでいるか、何者であるかは、関係ない。お互いにリスペクトをもって共に時を過ごすことができれば、それはもうおともだちなのである。

『すみれの花の砂糖づけ』
タイトルと文庫の装丁が可愛らしくて一目惚れした。女の子の気持ちを思い出したいときに読む。一編、一編の詩から、いい匂いがしてくるような気がする。

・・・

こうして作品を挙げてみてふと気づいた。江國さんの描くこどもの物語が好きなのかもしれない。いろいろ考えて、感じていた、こどもの頃の自分とふたたび交信するような気持ちになっているのだと思う。

どこか浮世離れしてフラジャイルな大人の女性は、重ね合わせるというより、その儚さを眺めたり優美さにうっとりするというほうが自分にはぴったりくる。

いつかは、江國さんみたいなエッセイを、なんて夢見ている。

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