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CIRCLEにまつわる話のネタにどうぞ

前回投稿で取り上げたcircus。

元々のラテン語でも同じつづりcircusで、「円」を意味していました。

ここに、「小」の意味合いを持つ要素-ulusを混ぜ合わせたcirculus、これが英語circleの語源です。

「小さいcircus」

そのような基本義を持つcircleの意味を見ていきましょう。

「円」

これが歌詞の中に登場する曲として、以前にも取り上げたことがある『The Windmills Of Your Mind』をご紹介します。

「Round like a circle in a spiral
(螺旋の中の円のように丸く)」

で始まり、

「Like the circles that you find in the windmills of your mind.
(あなたの心の風車にあなたが見出す円(複数)のように)」

で1番が終わります。

元々西暦1968年/昭和43年のアメリカ映画『The Thomas Crown Affair』(邦題『華麗なる賭け』)の主題歌で、イギリス人Noel Harrisonノウアル・ヘリスンが歌った曲ですが、西暦1999年/平成11年に再映画化(その時の邦題は『トーマス・クラウン・アフェアー』)された時には同じくイギリス人Stingスティングが担当しました。

『STING - Windmills of Your Mind』
https://www.youtube.com/watch?v=8TtdW--jhAQ

また、「円形の物」ということで次のような使い方もできます。

「車座」

「sit in a circle
車座になって座る.」
(研究社新英和中辞典)

『家路』という歌は元々、チェコの作曲家Antonín Dvořákアントニーヌ・ドヴォジャークの交響曲を基にしたものです。

「交響曲第9番『新世界より』の第2楽章「ラルゴ (Largo)」の主題となる旋律に基づいて、ウィリアム・アームズ・フィッシャーが1922年に作詞、編曲した歌曲、合唱曲。
「Goin' Home」は、1930年代には「家路」として日本に紹介されており(中略)、特に、歌い出しの歌詞でもある「遠き山に日は落ちて」として知られる堀内敬三によるものは、戦後長く教科書に教材として採用され、愛唱歌とされるほど定着している。」
ウィキペディア

堀内版『家路』のサビの最後の部分の歌詞を分析しましょう。

いざや⇒「さあ」。人を誘う時の言葉であり、品詞で言えば「感動詞」です。

楽しき⇒形容詞「楽し」の連体形で、次の言葉を修飾しています。

まどい⇒漢字では「団居」あるいは「円居」と書き、歴史的仮名遣いでは「まどゐ」となります。車座、つまり人々が円く並ぶことであり、また、そのような状態になって楽しむ「団欒(だんらん)」を表します。

せ⇒口語で言えば「する」に当たる動詞「す」の未然形です。

ん⇒助動詞「む」の終止形「む」のことで、「しよう」の意です。

『遠き山に日は落ちて|日本語歌詞|ドヴォルザーク 交響曲第9番「新世界より」より』
https://www.youtube.com/watch?v=DjLn1r7GZhk

「環状線」

環になった道路や鉄道のことを言うこともあって、JR東日本の山手線の「内回り/外回り」は「inner circle/outer circle」と表現できるようです。

「仲間」

円の内側、ということだと思いますが、「仲間」「範囲」などの意味合いがあります。

「the upper circles of society 上流社会.
business [literary] circles 実業[文学]界.」
(研究社新英和中辞典)

先程「内回り」として登場した「inner circle」はこちらの用法で使われると「権力者の側近達」を表します。

以下の記事は2年前にJoe Bidenが合衆国大統領になった際のもので、側近として指名された人物達を紹介するものとなっています。

『Meet Joe Biden's new inner circle appointees』
https://www.gq-magazine.co.uk/politics/article/joe-biden-inner-circle

(題名を訳すと「ジョウ・バイデンの側近として新たに指名された人々をご紹介」)

動詞として

「回る」や「囲む」など円に関係する動作を表すことはご想像の通りです。

「The kite circled round and round.
トビは輪を描いて旋回した.」
(研究社新英和中辞典)

歌手三橋美智也が昭和33年に出した曲『夕焼けとんび』の歌詞にこうあります。

「夕焼空が マッカッカ
とんびがくるりと 輪を描いた」
https://www.youtube.com/watch?v=3y--H3tUS-8

私よりもだいぶ上の世代の曲なのですが、もしかすると辞書の例文を作った方はこの歌詞を念頭に作ったの「かも」しれません。

ダンテの『神曲』

我が国で言えば鎌倉時代に当たる頃の人、イタリアの詩人Dante Alighieriダンテ・アリギェーリの代表作と言えばご存じ『神曲』です。

(イタリア語では『Divina Commediaディヴィーナ・コンメーディア』、英語では『Divine Comedy』となります)

『Infernoインフェールノ(地獄篇)』『Purgatorioプルガトーリオ(煉獄篇)』『Paradisoパラディーゾ(天国篇)』の3部構成なのですが、『時獄篇』において

「地獄の世界は、漏斗状の大穴をなして地球の中心にまで達し、最上部の第一圏から最下部の第九圏までの九つの圏から構成され」
ウィキペディア

ていると描写されます。

画家のBotticelliボッティチェッリがそれを描いたものが以下の画像です。
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/ab/Botticelli_ChartOfDantesHell.jpg

その中に、Limboリンボ(英語でも同じつづり)という、日本語では「地獄の辺土」「辺獄」などと訳される領域があります。

「天国と地獄の中間の場所;洗礼を受けなかった幼児やキリスト降誕以前に死んだ善人の霊魂がとどまるとされる」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

これが「第一圏」に当たるのですが、「第一圏」はイタリア語では「il primo cerchioイル・プリーモ・チェールキオ」、英語では「the first circle」となります。

(cerchioはcircleと同源の言葉です)

「first circle」?

アメリカのギター奏者Pat Methenyパット・メシーニの代表作の1つ『The First Circle』が思い起こされます。

とは言え、「ここは地獄の一丁目」的なおどろおどろしい曲では全くないので、『神曲』とは関係のない題名なのだとは思います。

曲の冒頭にある手拍子が難しいことで有名で、Pat Metheny Groupのコンサートに行ってこれをうまく手拍子出来ないと、「アイツは《にわか》だ」と周囲の人々から白い目で見られるという恐ろしい曲です。

次の動画を見て、ご一緒に練習しておきましょう。

『[Count the Beats] Hand clapping : Pat Metheny - First Circle INTRO(手拍子)』
https://www.youtube.com/watch?v=D342jVvozjk

全篇はこちら

『The First Circle (1993)』
https://www.youtube.com/watch?v=ri8zLrQFuGg

上田綺世

サッカーの日本代表である上田綺世選手は現在ベルギーのクラブに所属しています。

その名は「Cercle Brugge」。

『「試合出てもええんやで」元鹿島の上田綺世がカシマスタジアムに登場!「おかえりーーー」の声
https://www.soccerdigestweb.com/news/detail/id=133249
(中略)鹿島アントラーズでプロキャリアをスタートさせ、現在はベルギーのサークル・ブルージュに所属する上田綺世が、古巣のカシマスタジアムに姿を見せたようだ。』

『【上田 綺世(セルクル・ブルッヘ)プレー集】尻上がりにゴール量産しリーグ2位18得点!理不尽な破壊力はベルギーで進化!!|2022-23ベルギーリーグ』
https://www.youtube.com/watch?v=PN5oWYLN9Uo

「サークル・ブルージュ」?「セルクル・ブルッヘ」?

このチームをウィキペディアで調べようとすると、次のような注意書きがあります。

「この記事の項目名には以下のような表記揺れがあります。
サークル・ブルッヘ
サークル・ブルージュ
セルクル・ブルッヘ
セルクル・ブルージュ」

ベルギーではフラマン語(オランダ語の一種)とフランス語が2大言語です。

このサッカー・クラブのある町はフラマン語圏にあるのですが、フラマン語の人々がCercleを読むときはどちらかと言うと「セルクル」の方が近いように聞こえます。

都市名であるBruggeはフラマン語での名前で、発音をカタカナ表記しようと思ったら「ブルッヘ」が妥当でしょう。

(尚、Bruggeは英語bridgeと語源が同じだそうです。運河の町であるので橋がたくさんあるとか)

ところで、英語circleにあたるオランダ語はcirkelであって、cercleはフランス語です。ということは「Cercle Brugge」は2つの言語の混合になっている訳です。

その昔、クラブが創設されたときの名前は「Cercle Sportif Brugeois」といっており、これはフランス語で統一された名称でした。sportifはここでは「スポーツの」の意の形容詞、Brugeoisはこの町の名前の形容詞形です。

フラマン語圏なのにフランス語名だった理由は不明です。

もっとも、学校で世界史を習う時はそのフランス語での都市名「Brugesブリュージュ」として出てくるのが一般的かもしれません。

「ブリュージュBruges
ベルギー北西部,フランドル地方の商工業都市
中世に毛織物工業で繁栄し,ハンザ同盟にも加入していた。」
(旺文社世界史事典)

派生語

形容詞circular

circleの形容詞形はcircularで、「円の」「円形の」「ぐるぐる回る」「巡回の」といった意味があります。

オーストラリアのシドニーにはこれが名前に入った場所があります。

「サーキュラー・キー(Circular Quay)は、オーストラリア・シドニーにある埠頭。(中略)
サーキュラー・キーには、歩道が整備され、ショッピングモール、公園、レストランが軒を連ねる。また、シドニー湾を横断するフェリー乗り場、バスターミナル、鉄道駅が設けられていることから、シドニーの交通の中心でもある。」
ウィキペディア

(quayが「埠頭」の意味になる言葉であり、keyと同じく「キー」と発音します)

Google Mapで見ると「円形」というには中途半端なような気がします。
https://www.google.co.jp/maps/place/オーストラリア+〒2000+ニューサウスウェールズ+シティ・オブ・シドニー+サーキュラー・キー/@-33.8591132,151.2119069,17.15z/data=!4m6!3m5!1s0x6b12ae69d26aafad:0x7f9b21ebd5b57ce0!8m2!3d-33.8611374!4d151.2126457!16zL20vMDJwcjAy?hl=ja&entry=ttu

その理由はこうでした。

「サーキュラー・キーは、もともと「セミ・サーキュラー・キー」として知られていた。その名前の由来は港の形状(半円型)であることに由来する。しかしながら、利便のため、名前は短縮されて使われるようになった。」(同)

動詞circulateとその名詞形circulator/cirlulation

動詞circulateは、自動詞用法では流体が「循環する」、「歩き回る」、噂などが「流布する」といった使い方をします。

他動詞としては「循環させる」等になるので、「エアコンと併用するといいですよ」と言われる「サーキュレーター」もその意味になります。ただし英語としてはこの家電のことは、「何を循環させるのか」を追加して「air circulator」とした方が良いようです。

「流布」に近いですが、刊行物が「販売される」ということも意味します。

「The Times circulates throughout the country.
タイムズ紙は全国で販売される.」
(研究社新英和中辞典)

その延長線上でcirculationを考えると、「循環」「流布」といった状況を指す以外にも、刊行物が流布している数量、つまり「販売部数」という意味合いで目にすることも多いのです。

「This newspaper has a circulation of 100,000.
この新聞は発行部数は 10 万である.」(同)

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

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