BUSYは「bu」なのにどうして「ビ」ジーと読むのか
早いもので年が改まってからもう3週間が経ちました。
休暇という非日常から日常に戻り、忙しい日々をお過ごしのことと思います。
「忙しい」と言えば「busy」、「busy」と言えば「忙しい」…、と自動的に考えてしまいがちですが、busyは意外と守備範囲の広い言葉です。
人がbusy
英語では
この場合はもちろん「忙しい」「手がふさがっている」という日本語に対応しますが、【何で/何をして】忙しいのかという要素を盛り込みたいときにはどうするかというと…
「Mr Haynes is busy with【a customer】at the moment.
(ヘインズ氏はちょうど今、【顧客】対応で手がふさがっている)
Rachel’s busy【studying for her exams】.
(レイチェルは【試験に向けて勉強する】のに忙しくしている)」
(ロングマン現代英英辞典;英文中のカッコは引用者が付けた、以下同様)
1例目の様に【 】が名詞を主役とするものならその前に前置詞withを置いてから、2例目の様にing形が率いる要素ならbusyの後に直付けします。
busyは動詞としても用いられることがあり、再帰代名詞と組み合わせて「忙しくする」になります。
「She busied herself with【household chores】in the morning.
彼女は午前中は【家の雑用】で忙しく過ごした
I busied myself (in)【tidying my apartment】.
【アパートの片づけ】で忙しかった」
(研究社新英和中辞典)
形容詞用法でもそうですが、ingが来る場合に前置詞inを伴うこともあります。
ドイツ語では
この意味でのbusyに相当するドイツ語はbeschäftigtベシェフティヒトです。
動詞beschäftigenベシェフティグンの過去分詞に由来する形容詞ですが、この動詞は再帰代名詞と組み合わせた形で、「従事する」という意味も守備範囲にしています。
「Sie beschäftigt sich intensiv mit Deutsch.
彼女は集中的にドイツ語を学んでいる」
(小学館プログレッシブ独和辞典)
この延長線上で形容詞beschäftigtも捉えられるでしょう。
「der《mit【dieser Angelegenheit】sehr beschäftigte》Bürgermeister
《【この件】で非常に忙しい》市長」(同)
「I was busy【studying】all evening.
Ich war den ganzen Abend mit【Lernen】beschäftigt.
(私は一晩中、【勉強すること】で忙しかった)」
(Collins)
英語のwithに当たる前置詞mitが使われています。
フランス語では
この意味でのbusyに相当するフランス語はoccupéオキュペです。
動詞occuperオキュペの過去分詞に由来する形容詞ですが、この動詞はその守備範囲の中に「忙殺する」「従事させる」という意味も持っています。
「J'ai en ce moment un travail très important qui m'occupe entièrement.
私は今,とても大事な仕事があってそれにかかりきりだ」
(小学館プログレッシブ仏和辞典)
quiは関係詞であり、ここでは「un travail très important」が先行詞です。
その「とても大事な仕事」が「m'occupe」、つまり「私を忙殺する」と言っています。
(m'が1人称単数の代名詞)
「Je l'ai occupé à【classer mes livres】.
私は彼に【蔵書の整理】をやらせた」(同)
「l'ai occupé」は「彼を従事させた」であり、l'が3人称単数の代名詞です。
そして【何に/何をすることに】は前置詞àで導いていることが判ります。
2つの例文とも人が直接目的語になっていましたが、「忙しい人」を主語にする際に形容詞occupéを用います。
「Il est occupé à【rédiger ses mémoires】.
彼は【回想録の執筆】にかかりきりだ」(同)
英語の中に存在する、occupéの親戚
フランス語occuperと同源の英語がoccupyで、こちらでも再帰代名詞と組み合わせて「従事する」になります。
「He occupied himself (in)【tidying up the room】.
彼は【部屋の掃除】にとりかかっ(てい)た」
(研究社新英和中辞典)
過去分詞由来の形容詞occupiedもoccupéのように使えます。
「I'm occupied with【domestic tasks】.
【家事】で手いっぱいです
He's occupied (in)【writing a novel】.
彼は【小説を執筆】中だ」(同)
電話がbusy
電話が「話し中」であることをbusyで表現するのは有名な話です。
「I called Sonya, but her line was busy.
(私はソーニャにかけたが、彼女の電話は話し中の状態だった)」
(ロングマン現代英英辞典)
これに加えて、部屋が「使用中」であることも表すことが可能です。
会議室予約システムについてのウェブ・ページにこんなことが書いてあります。
「you are able to see the room availability (free/busy)」
「room availability部屋が利用できるか」を言い換えて「free/busy」となっていることから判るように、busyはfreeの対義語として登場しているわけです。
電話には使いませんが、部屋・トイレについてはoccupiedもOKです。
何しろ動詞occupyは場所を「占める」ことを(さらには「占有する」「占領する」ことも)意味する言葉ですからね。
「Is this seat occupied?
この席はふさがっていますか
“Occupied"
「使用中」 《トイレ・浴室などの表示》」
(研究社新英和中辞典)
フランス語occupéの方は電話にも部屋・トイレにも使えます。
「La ligne est occupée.
話し中だ
La place est occupée.
(乗り物,劇場で)その席はふさがっています」
(小学館プログレッシブ仏和辞典)
フランスの映画監督Jean-Luc Godardジョン=リュック・ゴダールの作品で、西暦1965年に公開された『Alphaville, une étrange aventure de Lemmy Caution』。
(本邦では翌昭和41年に『アルファヴィル』の題名で初上映)
コンピューター「Alpha 60 アルファ・スワソント」が支配する都市「アルファヴィル」を舞台とする、(今の私たちからすると「大昔」である)1984年が「未来」として描かれているSF映画です。
『ALPHAVILLE Trailer』
https://www.youtube.com/watch?v=CzaATgGHmy0
その未来の世界では、取調室の数々が並んでいる廊下を歩くとそれぞれの部屋が「空いている」のか「使用中」なのかが、Alpha 60によって機械音声でアナウンスされます。
前者が「libreリーブル」であり、後者はもちろん「オキュペ」です。
以下の動画の46:00辺りからがそのシーンです。
『Alphaville』
https://www.youtube.com/watch?v=UitB6c8QP80
街がbusy
「a busy town [street]
にぎやかな町[繁華街]」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)
ドイツ語ではbelebtベリープトという形容詞が担当します。
これは動詞belebenベリーブンの過去分詞から来ていますが、動詞としては再帰代名詞とセットにすると「賑やかになる」を表すことができます。
「Die Straßen beleben sich.
街に人々があふれている」
(小学館プログレッシブ独和辞典)
そして形容詞belebtを独和辞典で引けば、先程のbusyと同じような例文が載っています。
「eine belebte Straße
にぎやかな〈人通りの多い〉通り」(同)
フランス語ではtrès fréquentéトレ・フレコンテという表現があるようです。
trèsはveryの意の副詞、fréquentéは動詞fréquenterフレコンテ(よく通う)の過去分詞に由来する形容詞です。
「L’avenue du Prado est une rue très fréquentée du centre-ville de Marseille.
(プラド大通りは、マルセイユ中心街の賑やかな通りだ)」
(Expedia Groupのサイトより)
デザインがbusy
デザインや色柄がbusyであるとは、「煩(うるさ)い」とか「ごてごてした」といった意味合いです。
英英辞典では以下のように定義しています。
「too full of small details
(小さな細部表現に満ち溢(あふ)れすぎている)」
(ロングマン現代英英辞典)
「Cluttered with detail to the point of being distracting
(細かいことで雑然としていて、気が散ってしまうほどまでになっている」
(American Heritage Dictionary of the English Language)
では使用例をご覧ください。
「While there isn’t a precise definition of a busy design, it is best described as a design without a clear focal point. This is usually the result of too many elements competing for attention, too many colors, textures, too much copy, and too many typefaces.
(煩いデザインというものの厳密な定義は存在しないが、明確な主眼となるものを欠いたデザインだというのが最善の説明である。これは普通、あまりにも多くの要素が人の注意を惹(ひ)こうと競っていることの結果である。あまりにも多くの色、風合い、あまりにも多くのうたい文句、あまりにも多くの書体が)」
(m design社のサイトより)
busyな困ったヤツ
最後に取り上げるのは「お節介な」「干渉好きな」という、意外な用法です。
英英辞典では次のように定義しています。
「foolishly or intrusively active
(ばかみたいに、あるいは出しゃばりなほど積極的な」
(Merriam-Webster)
「Being a busybody; meddlesome; prying
(お節介な人である;うんざりするほどお節介な;詮索好きな)」
(American Heritage Dictionary of the English Language)
使用例はこんな感じです。
「She's always busy in other people's affairs.
彼女はいつも他人のおせっかいを焼く」
(研究社新英和中辞典)
つづりと発音の関係
busyは中学生など、英語学習に日が浅い人でも出会う「基礎的」な単語です。
しかし、buとつづって「ブ」ではなく「ビ」と読むという「例外的」な単語であるため、「英語はなんて難しいんだ」とイヤになってしまうきっかけになりかねません。
この「u」は、イングランド(言うまでもありませんが、英語はイングランドの言語です)の中のWest Midlandsミッドランド西部・Southern England南イングランド方言のかつての発音を表しています。
一方、East Midlandsミッドランド東部方言においてはつづり「i」の通りの発音をしていました。
これら2つの「文字・発音セット」、どちらか一方が時の流れの中で生き残った、という話ならば簡単だったのですが、文字はこっちのもの、発音はあっちのものが定着してしまい、現在の例外的状態に至っています。
同じような現象が起きたのが「bury埋める」であり、これは文字「u」を「エ段」で読んでいます。
先程同様に「u」は、ミッドランド西部・南イングランド方言のかつての発音です。
そして「エ段」の発音はKentケント方言のものが生き残った結果です。
初学者にここまで説明するかどうかはさて措(お)き、「あくまでも例外的な発音だから、心配しなくていいよ」ぐらいのことは言ってあげた方が良いでしょう。
busyの名詞形
名詞形を作る接尾辞-nessはお馴染みだと思います。
ですから「忙しさ」という名詞がbusynessになることは問題ないでしょう。
おや、何かつづりがヘンです。yではなくiを使ってbusinessなのではないのか…
いいえ、やはりbusynessで良いのです。
考えてみれば「ビジネス」は「忙しさ」という意味ではありませんよね。
「職業」「商売」などと、意味が「忙しい」から離れて発展していった方をbusinessとし、「忙しさ」の方は区別するためにbusynessというつづりにしているのです。
そして厄介なことに、「ビジネス」というカタカナはbusynessの方の発音[bízinəs]を表記するのに適しており、一方businessは[bíznəs]なので「ビズネス」が妥当な書き方であるというネジレが見られます。
お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。
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