見出し画像

POLICYにそんな意味があると知った時、驚きませんでしたか?

前回投稿の最後に2種類のフォントの話をしましたが、改めて単語「フォント」そのものについて確認しましょう。

「フォント」の由来

フランス語から英語へ

英語font[fάntファント]はフランス語fonteフォントが英語に輸入されたものであり、元は動詞fondreフォンドルの過去分詞に由来します。

(fondreは以前の投稿『MELTの広がり』で取り上げましたので、ご一読ください)

これは「溶かす/溶ける」を表す動詞なので、名詞fonteには「溶けること」という意味があります。

「la fonte des neiges
雪解け(の時期)」
(小学館プログレッシブ仏和辞典)

また金属をいったん溶かした上で目的とする形に作る行為、「鋳造(ちゅうぞう)」のことも言います。

「la fonte d'une cloche
鐘の鋳造」(同)

以下は、「Japan Experience」というサイトに載っていた、奈良の大仏(東大寺盧舎那仏像)に関する記述です。

「La construction de ce Grand Bouddha au milieu du VIIIème siècle ne fut pas une bagatelle. Sa fonte aurait d'ailleurs épuisé la majeure partie des réserves de cuivre du Japon à l'époque, ce qui explique qu'il y ait très peu d'autres statues en bronze à la même époque.
その大仏を西暦8世紀中頃に造立するのは造作もないことではなかった。その上、それを鋳造することで、当時日本が蓄えていた銅の大部分を使い尽くしてしまったのだろう。それが、同時代に銅像が他には僅かしかなかったことの説明になる」

(この文章で言っていることが事実なのかは分かりません)

更に、その作り方で得られた品物「鋳鉄(ちゅうてつ)」もこの単語の守備範囲です。

「une cocotte en fonte
鋳物の鍋(なべ)」
(小学館プログレッシブ仏和辞典)

そして、「同じ型の活字の一揃(そろ)い」です。

活版印刷では必要な活字を拾い出して組み上げて、それにインクを付けて圧しつけることによって紙に文字が出現することになります。その活字も「鋳造で作られたもの」であるゆえにこの言葉で表されているのでしょう。

もっとも、現代的な、コンピュータを用いたdesktop publishingデスクトップ・パブリシングにおけるフォントはデータであって、鋳造品ではありませんが。

digital fontディジタル・ファントとすればより正確な表現ですが、これをフランス語にする際、digitalはnumériqueニュメリークという言葉が対応するので、fonte numériqueとなります。

「フォント」の別の言い方

さて、フォントを表すフランス語にはpoliceポリスという単語もあります。

「警察」?

誰もが知る「警察」という意味のpoliceとは、つづり・発音が同じながら別系統のpoliceです。イタリア語polizzaポリッツァから来た言葉で、やはり「同じ書体の一揃い」を意味するものです。

fonteとpoliceの違いですが、ウィンドウズに標準搭載されているものを例にとると、「游ゴシック」「游ゴシック Light」「游ゴシック Medium」はそれぞれ1つのfonteです。

それらfonteをまとめて「游ゴシックの一族」として、つまりフォント・ファミリーとして捉えるとpoliceという概念になります。

「保険証券」

フランス語police

このpoliceはpolizzaより更にさかのぼればラテン語の「金銭の受取証」を意味する単語に行き当たります。その意味の方により近い使い方が「保険証券」であり、こちらの方が一般的で頻度が高いと思われます。

「Une police d’assurance est un contrat entre un assureur et un assuré.
保険証券は、保険者と被保険者との間の契約書である」

英語policy

この「保険証券」は英語ではpolicy[pάləsiパラシ]となります。

「政策」?

いえ、先ほど登場したイタリア語polizza⇒フランス語policeの流れの更に下流にある英単語であり、「政策」系policyとは別系統です。

(尚、英語policyにはフランス語policeと違って「フォント」の意味はありません)

「保険に入る」という時は「take out+保険証券」という表現を使います。

「take (out) a life insurance policy in his name for $2,000
彼を受取人とする2000ドルの生命保険に入る」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

保険を「更新する」であればrenewを使います。

「I’ve just renewed the policy.
(ちょうど保険証券を更新したところだ)」
(ロングマン現代英英辞典)

保険の対象を語るときはcoverという語が担当します。

「Does the policy cover theft and fire?
(その保険証券は盗難と火災を補償範囲としていますか)」(同)

さて先程から「別系統」「別系統」と言ってきましたが、それを片付けましょう。何と言っても「警察」「政策」の方が使う機会が明らかに多いわけですから。

「警察」の方

世界史の授業で古代ギリシャの都市国家を言う「ポリス」という言葉を習うと思いますが、それが源となった「都市行政、統治」の意の言葉がラテン語politiaを経由し、昔のフランス語policeから英語に入って同じつづりを維持しています。

フランス語police

まずは「治安」「統制」といった意味からご紹介します。

「faire la police
治安[秩序]を維持する
assurer la police des salaires
賃金の統制を図る」
(小学館ロベール仏和大辞典)

そして治安を維持する組織である「警察」です。

「Nous avons appelé la police.
私達は警察を呼んだ」

Collins Beginner’s French-English Dictionaryによると、フランスには「警察」というのは数種あるそうです。

「The police nationale are in charge of national security and public order in general, while the police municipale mainly deal with traffic and minor crimes. The gendarmerie nationale look after rural policing and border patrols. The CRS are involved in crowd and riot control.
国家警察は国家安全保障や治安一般を担当する。一方、市町村警察は主に交通や重要性の小さい犯罪を取り扱う。国家憲兵隊は地方の警備と国境警備に責任を持つ。共和国保安機動隊は群衆・暴動の取り締まりに関わる)」

英語police

英語のpolice[pəlíːsプリース]の場合「治安」という意味では使うのは古い用法であるようです。

そしてお馴染み「警察」「警官隊」。

集合名詞であり、単数形ではあるものの複数として扱います。以下の文で動詞がareになっていることに注目してください。

「The police are on his track.
警察では彼を追跡している.
Over 100 police are guarding the conference hall.
100名以上の警察がその会議場を警備している.」
(研究社新英和中辞典)

イギリスの警察に関しては、「Scotland Yardスコットランド・ヤード」という通称をお聞きになったことがある方が多いと思います。

これは決してスコットランドを管轄する組織ではなく、イングランドに在るLondon[lʌ́ndənランドン]の警察「Metropolitan Police Service」を指しています。ランドンの中のGreat Scotland Yardという通りに面した場所にあったことから付けられたあだ名です(現在は移転)。

東京都の治安維持組織である警視庁を「桜田門」と言うが如しです。

このいわゆる「ロンドン警視庁」が担当するのは「Greater London マイナス the City of London」という範囲です。

Greater Londonの範囲をウィキペディアの地図でご確認ください。

地図上で「シティ」と書かれている所がthe City of Londonであり、ここはここで独自の行政があり、治安維持を担う組織は「City of London Police」という名称で、日本語では「ロンドン市警察」と訳されるようです。

さて、英語policeには動詞用法があります。

「▲▲の治安を維持する」ではこうなります。

「The army was brought in to police the riot-torn city.
暴動でめちゃめちゃになった町の治安維持のために軍隊が動員された」
(大修館書店ジーニアス英和大辞典)

また、「管理する」「監督する」ではこうなります。

「police the new regulations
新条例を(正しく施行されるように)監視する.」
(研究社新英和中辞典)

「政策」の方

英語policy

ラテン語politiaから昔のフランス語でpolicieというつづりになり、英語ではpolicyと書くことに落ち着きました。

政府・企業などの「政策」「方針」、そしてより一般的な「策」「やり方」などを意味します。

「the Government's policy on trade
政府の貿易政策
It's bad policy to invest all your money in one venture.
1つの企業に有り金を全部投資するのはいいやりかたではない.」
(研究社新英和中辞典)

その他に、あまり知られていない「深慮」という意味もあります。

「for reasons of policy
熟慮の結果.」(同)

フランス語politique

「政策」を意味するフランス語はpolitiqueポリティークです。

「Le chercheur est incollable sur la politique extérieure européenne.
その研究者はヨーロッパ連合の対外政策について何でも答えられる」

英語policy同様、「策」「やり方」にも使えます。

「pratiquer la politique du moindre effort
最少の労力で済むようなやり方をする」
(小学館プログレッシブ仏和辞典)

「政治」

フランス語politique

politiqueはその他に「政治」という意味もあります。

「De moins en moins de jeunes s’occupent de politique
(政治に携わる若者の数がだんだん少なくなっている)」
Jugendsessionというスイスのサイトより)

(尚、politiqueには形容詞用法もあります)

英語politics

これに対応する英語はpolitics[pάlətìksパラティクス]であり、もちろんこれもギリシャの「ポリス」起源の言葉です。

「The legendary Brazilian football star Romário entered politics and was elected to the Chamber of Deputies in 2010.
ブラジルの伝説的なサッカー・スターであるホマーリウは政界入りし、西暦2010年に下院議員に当選した」

政治的な動き、ということで政治家以外の一般的な「策略」「駆け引き」の意味にもなります。

「There's too much politics in what he's doing.
彼のやることはかけ引きが多すぎる」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

アメリカの歌手Billy Joelビリー・ジョウルの曲『Piano Man』(西暦1973年/昭和48年発表)に、この「策略」「駆け引き」の意味のpoliticsが登場します。

「And the waitress is practicing politics」

この場合の動詞practiceは「実行する」の意味なので「その女給は駆け引きを実行している」となりますが、この歌のビデオには彼女が酔客との「駆け引きを実行している」場面が出てきます。

『Billy Joel - Piano Man (Official HD Video)』
https://www.youtube.com/watch?v=gxEPV4kolz0

字幕を表示させた状態でご覧ください。この歌詞は3:09辺りから出てきます

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?